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経年劣化に強いテンペ

インドネシアの伝統食品「テンペ」は、インドネシアで年間約40万トンほど消費されている。リゾープス属(クモノスカビ)の胞子をスターター(種菌)として用いる無塩大豆発酵食品のテンペは、発酵中に大豆成分が大きく変化し、栄養価の高い健康食品となる。大豆の主要成分であるたんぱく質は分解されて、アミノ酸やペプチド類となり、また繊維も崩壊し、消化・吸収に適した非常に理想的な形になる。特に、遊離アミノ酸ではグルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、アラニン、リジン、ロイシンが、原料の大豆と比較して20〜200倍にも増える。

その中でも、非常に大きな成分変化を示しているのが、遊離脂肪酸。リゾープス菌の強力な脂肪分解酵素(リパーゼ)の作用によって、大豆中の脂肪分が分解され、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が激増する(表1参照)。

例えばリノール酸では、発酵前(蒸煮大豆)に遊離の形では全く存在していなかったものが、発酵後に5%にも増加しているほどである。同様にリノレン酸はゼロから0.3%に、パルミチン酸は発酵前の21倍、ステアリン酸は12倍、オレイン酸は13倍にも達している。これら不飽和脂肪酸は血管を強くし、くも膜下出血や脳溢血の予防に効果があるとされ、さらには血中コレステロールの低下やアンチ・エイジング作用もあるとの研究発表もある。

加えて、テンペの驚くべき機能性として、自らの酸化防止機能が挙げられる。表2を見ても分かるように、テンペ粉末の過酸化物価は入手時から3か月が経過しても、変化の度合いはかなり小さい。テンペ中には、イソフラボン化合物から成る抗酸化性化合物が多く含まれていることが解明されている。その主要成分はダイゼイン、ゲニステインである。そのためにテンペは、単に栄養価の高い食品としてばかりか、抗酸化物質の研究における有効な試料として、研究者の熱い注目を浴びている。

テンペに多く存在するリノール酸など遊離脂肪酸は強く酸化すると、風味の劣化ばかりか、その酸化物摂取による胃腸、肝臓や腎臓の障害を引き起こす恐れがあるともいわれているが、テンペ自体に備わった強力無比な抗酸化力のお陰で、遊離脂肪酸が多量に存していても心強いわけである。

FC2_200610_テンペ

参考文献:小泉武夫『発酵食品礼讃』(文春新書)
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大豆、もうひとつの顔

ラーメン、だしの素、スナック菓子に限らず、身の回りにあふれた大抵の加工食品に添加されているものに「塩」「化学調味料」「たんぱく加水分解物」の3つがある。この“黄金トリオ”があらゆる加工食品のうまみのベースとなり、これに風味付けのエキスや香料を加えるだけで、どのような味も作り出せる–と、安部司氏は著書『食品の裏側』に記している。

塩(塩化ナトリウム)は周知のとおり。化学調味料(グルタミン酸ナトリウムなど)は、欧米人を中心に「摂取すると頭が痛くなる」「舌がしびれる」などといった「中華料理症候群」の報道によって広まり、家庭消費量が減少したほど。

では、たんぱく加水分解物とは何か?それは、たんぱく質を分解して作られるアミノ酸のこと。アミノ酸はうまみの素で、何でも日本人好みの味にしてくれる。正確に言うと、たんぱく加水分解物は添加物に当てはまらないらしいが、食品の味を調えるという意味で限りなく添加物に近い。酵素で分解するか、もしくは塩酸を用いる「塩酸処理法」で作られる。

たんぱく質には植物性と動物性があり、植物性でもっとも一般的に使われているのが大豆。油を搾り取った後のミール(脱脂大豆)を、塩酸処理法なら塩酸で分解し、それを中和させて複雑なアミノ酸液を作る。これがうまみのベースとなるたんぱく加水分解物である。奇妙な臭いを持ったうまみ成分で、それだけで風味はないが、別の風味エキスを混ぜると元の臭いが消え、うまみだけが生きてくるそうだ。

安部氏はかつて食品添加物専門商社のトップ・セールスマンとして年間数10億円の収益を上げ、いくつもの商品開発の現場に携わってきた。そこでの葛藤から、現在は加工食品によって便利で安価な食生活を享受している現代の消費者が、その代償として口にしている添加物について世に問う活動を行っている。講演会では、実際に添加物の白い粉を数種類調合し、豚骨スープやコーラ、ジュースなど思いどおりの味を再現して見せている。

参考文献:安部司『食品の裏側』(東洋経済新報社)

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中国の発酵豆腐

日本では食に対して「安全・安心」が最も重視される。ところが、国土の広い中国では「いかに長く日持ちをさせるか、が食品産業にとってもっとも重視されるところである」と、中国の大手豆腐メーカーの副社長は話していた。

技術の進歩により、今は真空パックや冷凍、乾燥など食品の日持ちをさせる方法は多々あるが、昔から伝わる効果的な手段は何と言っても発酵である。4000年の歴史をもつ中国には数多くの発酵食品があり、豆腐までも発酵させてしまう。

その発酵豆腐は「腐乳(フウルウ)」と呼ばれる。ヨーグルトは「乳腐(ルウフウ)」で、ちょっと紛らわしい。ちなみに中国語で「腐」は「腐る」という意味に限定されない。「やわらかい」という意味もあり、「乳腐」や「豆腐」の「腐」はそれを指す。

腐乳の製法だが、豆乳ににがりを加えて寄せ固めたものを木綿布に包んで圧搾。ここまでは、木綿豆腐の作り方と大して変わらない。できるだけ水分を切ってから、適宜の大きさに切り、せいろ状の箱に入れて、稲わらを敷いた土間に積み重ねておく。1週間もすると、豆腐の表面にカビが密生してくる。

これを約20%の食塩水に漬けて凝固を強化し、その後、表面のカビを落とす。続いて、かめに入れると、わが国における焼酎に該当する白酒(パイチュウ)を少し振り掛ける。竹の皮と縄でかめのふたを封じ、土中にそのかめを埋め、そのまま1〜2か月間おき、発酵と熟成を行う。この間、かめの内部では、乳酸菌や酪酸菌の発酵が起こり、豆腐に酸味を付けると同時に、発酵食品特有の匂いをも付ける。

腐乳の味はマイルドでコクがあり、まさに「カマンベールチーズとクリームチーズとが一体化したようなクリーミーな味」。「オリエンタルのチーズ」の異名もあり、匂いがかなりきつく、慣れるまで大変だが、何度か味わううちにその重層的な味わいに病みつきになるというが……。

参考文献:小泉武夫『発酵食品礼讃』(文春新書)『くさいはうまい』(文春文庫)

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アルカリで固める

食品添加物の安全性が問題視されて久しいが、中には歴史的にも長く使われていることから安心感を持たれている添加物もあり、そういった添加物は得てして個々の食品加工において不可欠である場合が多い。

例えば、豆腐を固めるにがり(塩化マグネシウム)、羊羹などを作る寒天、そしてこんにゃくを固める水酸化カルシウム。水酸化カルシウム[=Ca(OH)2]とは、『広辞苑(第5版)』を引くと「酸化カルシウム(生石灰)に水を加えて製する白色の粉末。水溶液からは無色の結晶が得られる。わずかに水に溶解する。飽和水溶液を石灰水という。さらし粉・漆喰などの製造、土壌中和剤・殺虫剤・医薬品に用いる。消石灰・水化石灰」とある。日ごろ口にする大多数の食品は酸性を示すのだが、極めてまれな例として、こんにゃくがアルカリ性を示すのは、この水酸化カルシウムの働きによる。

こんにゃくを食べ始めた初期(文献上では平安時代とされる)は、もっぱら芋こんにゃくとして食用に供されたようだが、江戸時代後半に荒粉・精粉加工法が開発され、「粉こんにゃく」の普及によって、こんにゃくの需要はケタ違いに増加したと思われる。この際の中島藤右衛門の活躍については、武内孝夫著『こんにゃくの中の日本史』に詳しいが、芋こんにゃくであれ、粉こんにゃくであれ、その主要成分であるグルコマンナンを固めるのが、アルカリの水酸化カルシウムとなる。

コンニャクマンナンは、グルコースとマンノースが結合したグルコマンナンであり、水による膨潤性がきわめて大きく、水を加えると糊状になって強い粘性を示す。これにアルカリを加えると、抱水したままでかたまり、膨潤性を失う。これはアルカリ処理をすることにより、エステル状に結合したコンニャクマンナン分子のアセチル基が脱離し、化学的な構造変化が起きるためである。アセチル基の脱離は、コンニャクマンナンのゲル形成に必須の反応である。コンニャクの食品加工は、このようなマンナンの性質を応用したものである

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参考文献:群馬県農業改良協会『最新 こんにゃく全書 ― 栽培・経営・流通・加工 ― 』

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