吉行淳之介と納豆
「人間の声には、職業とその人の精神構造が滲みこんでいる」と、小説家の吉行淳之介(1924〜1994年)は記している。ある病院の待合室で本を読んでいると話し声が聞こえてきて、その声音に同業者だなと吉行が目を上げると、果たして文芸評論家の中村光夫(1911〜1988年)だったという。
「『声柄』という言葉があるが、それによって人柄まで判断できるかどうか」と問いかけながらも、自分自身ではできる気でいる吉行。ある日、男性の声で電話がかかってくる。「もしもし」という声だけで、これは同じ職業の人ではないなと吉行には分かった。男は刑務所に2年入っており、その間の日記を買ってくれないかと所望する。吉行は材料を使って小説を書かないので断ろうと思うが、男の「声柄」が気に入り、会うことにした。
「中年の男があらわれた。近県のヤクザの親分で、賭博の手入れをされて二年間ムショに入っていた、という。ロイド眼鏡をかけ、下町の商店主といった実直そうな風貌の人物で、きちんとネクタイを締めている。藁づとに入った納豆とヨーカンを、土産にくれた」
男は10冊ほどの大学ノートに細かく書き込んだ日記を持ってきた。吉行は拝見料を支払う。男は足を洗って、ささやかにカレーライス屋でも開きたいと言うのだが、その資金の何十分の一にもならない額だ。半月ほどして、再び男が訪ねてくる。「前と同じように納豆をもっている。あれは藁に入っていないと、どうも感じが出ない」
納豆菌は稲藁に多数生息しているから、藁づとに煮た大豆を詰めれば発酵して納豆ができる。そうして納豆を作るのが昔は当たり前だった。それを吉行も懐かしんでいるのだろう。男は財布を入れた上着を盗まれ、帰りの汽車賃がないと訴え、吉行は男に金を渡す。
男が3度目に訪れた時も納豆を持参して来たが、何も要求しなかった。雑談の挙げ句、「センセイ、ヤクザとつき合うときは、もうここまで、とピシャッとやらなくちゃいけませんよ。キリがなくなります」とアドバイスまで与える。
「いったい彼の目的は何だったのか。小説家という種族を痛めつけてやろう、とでもおもっているうちに気が変ったのだろうか。その後、カレーライス屋開店のチラシを送ってきた。いまでも、年賀状がくる」とエッセーは締めくくられる。実直な風貌のヤクザと声柄の良さ、そして納豆の組み合わせがおもしろおかしい。
参考文献:吉行淳之介『ダンディな食卓』(角川春樹事務所)

「中年の男があらわれた。近県のヤクザの親分で、賭博の手入れをされて二年間ムショに入っていた、という。ロイド眼鏡をかけ、下町の商店主といった実直そうな風貌の人物で、きちんとネクタイを締めている。藁づとに入った納豆とヨーカンを、土産にくれた」
男は10冊ほどの大学ノートに細かく書き込んだ日記を持ってきた。吉行は拝見料を支払う。男は足を洗って、ささやかにカレーライス屋でも開きたいと言うのだが、その資金の何十分の一にもならない額だ。半月ほどして、再び男が訪ねてくる。「前と同じように納豆をもっている。あれは藁に入っていないと、どうも感じが出ない」
納豆菌は稲藁に多数生息しているから、藁づとに煮た大豆を詰めれば発酵して納豆ができる。そうして納豆を作るのが昔は当たり前だった。それを吉行も懐かしんでいるのだろう。男は財布を入れた上着を盗まれ、帰りの汽車賃がないと訴え、吉行は男に金を渡す。
男が3度目に訪れた時も納豆を持参して来たが、何も要求しなかった。雑談の挙げ句、「センセイ、ヤクザとつき合うときは、もうここまで、とピシャッとやらなくちゃいけませんよ。キリがなくなります」とアドバイスまで与える。
「いったい彼の目的は何だったのか。小説家という種族を痛めつけてやろう、とでもおもっているうちに気が変ったのだろうか。その後、カレーライス屋開店のチラシを送ってきた。いまでも、年賀状がくる」とエッセーは締めくくられる。実直な風貌のヤクザと声柄の良さ、そして納豆の組み合わせがおもしろおかしい。
参考文献:吉行淳之介『ダンディな食卓』(角川春樹事務所)
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販売農家の大豆作付面積
“農林業の国勢調査”とも呼ばれる農林水産省の「農林業センサス」の大豆部門に関する集計結果(第4巻「農林業経営体調査報告書—農業経営部門別編—」第1集「水稲、畑作、麦類、大豆、さとうきび」)から、販売を目的に大豆を作付けした農家数と作付面積を知ることができる。大豆部門の対象は、調査期日(2005年2月1日)前1年間に販売目的で大豆を作付けした「販売農家」。販売農家とは経営耕地面積30アール以上、または農産物販売金額50万円以上の農業を営む世帯をいう。ただし沖縄を除く。
2005年の販売農家の大豆作付面積は7万6,574ヘクタールだった。全国の大豆作付面積(13万4,000ヘクタール)の6割弱を占めている。販売農家の作付面積が最も広いのは北海道で1万6,110ヘクタール。そして佐賀、福岡、秋田、山形、栃木と続く。ところが作付け農家の戸数で見ると、最多は佐賀の1万1,234戸。その後、山形、福岡、秋田、岡山で、北海道は6位、作付け農家数は7,476戸となっている。なお、主副業別分類で見ると、主業農家数は北海道が最も多く6,293戸、準主業農家の最多は秋田2,761戸、副業的農家の最多は岡山5,445戸となっている。
「主業農家」「準主業農家」「副業的農家」の分類は、1995年の「農業センサス」から採用されている区分。主業農家とは農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家、準主業農家とは農外所得が主で65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家、副業的農家とは65歳未満の農業従事60日以上の者がいない農家を指す。
2005年の販売農家の大豆作付面積は7万6,574ヘクタールだった。全国の大豆作付面積(13万4,000ヘクタール)の6割弱を占めている。販売農家の作付面積が最も広いのは北海道で1万6,110ヘクタール。そして佐賀、福岡、秋田、山形、栃木と続く。ところが作付け農家の戸数で見ると、最多は佐賀の1万1,234戸。その後、山形、福岡、秋田、岡山で、北海道は6位、作付け農家数は7,476戸となっている。なお、主副業別分類で見ると、主業農家数は北海道が最も多く6,293戸、準主業農家の最多は秋田2,761戸、副業的農家の最多は岡山5,445戸となっている。
「主業農家」「準主業農家」「副業的農家」の分類は、1995年の「農業センサス」から採用されている区分。主業農家とは農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家、準主業農家とは農外所得が主で65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家、副業的農家とは65歳未満の農業従事60日以上の者がいない農家を指す。

こんにゃくでアスベスト除去
こんにゃくが食品以外に利用される例は少なくない。第二次世界大戦中の「風船爆弾」は、こんにゃく芋が原料の多糖類高分子素材の持つ優れた防水性、気密性を応用したもの。最近では人体に有害で社会問題になっているアスベスト(石綿)に対しても、こんにゃくを利用した「アスベスト除去方法」(特開2007—162434)が考案されている。
アスベストは天然由来の鉱物であり、その繊維1本の細さはおよそ毛髪の5,000分の1といわれている。広辞苑によると、「蛇紋石の繊維状をなすもの。まれに角閃石もある。絹糸のように光り、綿のように柔らかで、しかも強靭。熱・電気の不良導体で、保温・耐火材料として用いられたが、石綿の吸入と肺癌の発生率には深い関連があり、使用規制されている」。
日本では1975年に吹き付けアスベストの使用が禁止され、2004年までに石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止されている。また「大気汚染防止法」により、特定粉塵として工場・事業場からの排出発生規制、「廃棄物処理法」により、一般産業廃棄物よりも厳重な管理が必要とする特別管理産業廃棄物に指定されている。2005年には「石綿障害予防規則」が施行された。
さて、こんにゃくによる「アスベスト除去方法」だが、アスベスト粉塵飛散を防止するとともに、実質的に“完全”に近いアスベストの除去が達成されるといい、次の3つの工程から成る。
1. こんにゃく溶液付与工程=天井、壁、梁(はり)、柱、その他の建築物のアスベスト施工面に付着している除去すべきアスベスト層に対して、こんにゃく芋の粉、粒、すり身、小塊、ペーストまたはエキス等のこんにゃく芋加工品の水溶液であるこんにゃく溶液を浸透させてアスベスト層を半固溶体の状態にする。
2. アスベスト層剥離工程=その半固溶体の状態とされたアスベスト層をアスベスト施工面から剥離させる。
3. アスベスト残渣除去工程=剥離後のアスベスト施工面に残るアスベスト残渣に対し、ドライアイス粒を噴射してアスベスト残渣をアスベスト施工面から除去する。
アスベストは天然由来の鉱物であり、その繊維1本の細さはおよそ毛髪の5,000分の1といわれている。広辞苑によると、「蛇紋石の繊維状をなすもの。まれに角閃石もある。絹糸のように光り、綿のように柔らかで、しかも強靭。熱・電気の不良導体で、保温・耐火材料として用いられたが、石綿の吸入と肺癌の発生率には深い関連があり、使用規制されている」。
日本では1975年に吹き付けアスベストの使用が禁止され、2004年までに石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止されている。また「大気汚染防止法」により、特定粉塵として工場・事業場からの排出発生規制、「廃棄物処理法」により、一般産業廃棄物よりも厳重な管理が必要とする特別管理産業廃棄物に指定されている。2005年には「石綿障害予防規則」が施行された。
さて、こんにゃくによる「アスベスト除去方法」だが、アスベスト粉塵飛散を防止するとともに、実質的に“完全”に近いアスベストの除去が達成されるといい、次の3つの工程から成る。
1. こんにゃく溶液付与工程=天井、壁、梁(はり)、柱、その他の建築物のアスベスト施工面に付着している除去すべきアスベスト層に対して、こんにゃく芋の粉、粒、すり身、小塊、ペーストまたはエキス等のこんにゃく芋加工品の水溶液であるこんにゃく溶液を浸透させてアスベスト層を半固溶体の状態にする。
2. アスベスト層剥離工程=その半固溶体の状態とされたアスベスト層をアスベスト施工面から剥離させる。
3. アスベスト残渣除去工程=剥離後のアスベスト施工面に残るアスベスト残渣に対し、ドライアイス粒を噴射してアスベスト残渣をアスベスト施工面から除去する。
有機JASマーク付きの豆腐

ちなみに、国内で有機JASの格付けされた納豆は9,908トンで、豆腐、納豆ともに海外では格付けされていない。大豆は、有機農産物と国内で格付けされたものが877トン、外国で格付けされたものが3万5,362トンとなっている。
「有機農産物」とは、「化学的に合成された肥料および農薬の使用を避けることを基本として、播種または植え付け前2年以上(多年生作物にあたっては、最初の収穫前3年以上)の間、堆肥等による土作りを行った圃場において生産された農産物」を指す。
「有機農産物加工食品」は、「原材料である有機農産物の持つ特性が、製造または加工の過程において保持されることを旨とし、化学的に合成された食品添加物および薬剤の使用を避けることを基本として製造された加工食品。食塩および水の重量を除いた原材料のうち、有機農産物および有機農産物加工食品以外の原材料の占める割合が5%以下であることが必要」と定義されている。
JAS規格(日本農林規格)と食品表示(品質表示基準)の2つについて定めたのが「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」であり、遺伝子組み換え食品の表示や有機農産物加工食品の認定・表示、生鮮食品の原産国表示の義務化などを盛り込んだ「改正JAS法」は2000年6月に施行された。すべての生鮮食品に対する原産地・原産国表示、農産物の有機認証表示、精米内容表示、遺伝子組み換え農産物を使用した加工食品の表示義務なども2001年4月からスタートしている。
農水省食品流通局は改正JAS法に基づいて、表示する有機農産物や有機農産物加工食品の「有機JASマーク」を決定、検査認証を受けた有機農産物・有機農産物加工食品であるか否かはこのマークによって判断される。また「有機JASマーク」がない農産物や農産物加工食品に「有機」「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されている。