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栽培植物としてのコンニャク

東南アジアの熱帯降雨林では、驚くべき豊産性と多様性に富んだ植物界が広がっていた。狩猟や放牧に頼らねばヒトの食物が見出されない乾燥地や北方の寒冷地と雲泥の差で、全面的に植物に依存した生活が可能となる世界だ。バナナ、ヤムイモ、タロイモ、サトウキビのような植物が、原始人であっても容易に収穫でき、(おそらく)人類最初の栽培も始まった。品種改良の面から見ても、驚くべき高レベルにまで達している。東南アジアで探し出され、農作物として発展してきたのは上記の4種だけではない。コンニャクもまた、そのひとつである。

一部のイモ類が熱帯から温帯まで伝播したように、コンニャクも興味深い分布の仕方を示す。コンニャク類の栽培植物には、熱帯性のインドコンニャク(Amorphophallus campanulata)と温帯でも栽培できるコンニャク(Amorphophallus konjac)がある。インドコンニャクは、芋の直径が数十センチメートルもの巨大なものになるが、インドが主な産地で、マレー以東では徐々に見捨てられ、レリクト・クロップ(残存植物)として西部ポリネシアの島々に出現する。インドコンニャクは成分の関係上、日本のこんにゃくの代用にはならないといわれている。

東アジアの温帯で栽培されるコンニャクは、インドシナ半島原産といわれ、中国、日本では石灰で固めたこんにゃくに加工される。その他、マレーシア諸島に野生のまま採集、食用されるコンニャク類が若干見出される。ジャワ島の「A. variabilis」、スマトラ島の「A. titanum」、ボルネオ島の「A. selebicus」、アンダマン諸島の「A. oncophyllus」などである。

基本的にコンニャク類はいずれも毒芋であるから、加工法を工夫しないことには食用できない。ただしその加工法が、日本のこんにゃくの場合も含め、直接的な水さらし法でない点は注目すべきところ。例えば、貴州ミャオ族の加工法によると、包丁で薄切りにした芋をさらに細かく叩いた上で、加水しつつ、石臼でする。鉄鍋に入れて加熱しながら、櫂状の板で撹拌。石灰水(古来は草木灰)を入れ、撹拌を続け、粘りが出たところで冷まして水を入れるという。

参考文献:中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)
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納豆トライアングル再考

かつて、インドネシアのとある大学教授が「ジャワの人は3Tで生きている」と言ったらしい。3つのTとは、テンペタウゲ(もやし)、タフー(豆腐)を指す。ジャワ島の主食は日本人同様にコメだが、おかずのメインはこれら大豆加工品であるとのこと。妙に親しみを感じさせてくれる。

栄養機能性も極めて高い大豆ではあるが、難点もある。穀類でん粉が水を加えて加熱するだけで容易に食べやすく、消化しやすくなるのに対して、大豆を含む豆類は水を加えて煮てもなかなか軟らかくなりにくいことだ。テンペ(無塩発酵大豆食品=インドネシアの納豆)、もやし、豆腐という大豆の料理加工法は、どれだけ絶妙の創意工夫であったことか。



インドネシアの豆腐は、発音からも分かるとおり、中国から比較的新しく伝来したもののようだが、テンペやもやしは歴史が古い。ジャワ島で最も重要な食品とされるテンペは、日本の糸引き納豆に相当する無塩発酵食品。大豆をよく煮て軟らかにしたものをバナナの葉などに包んで発酵させる。日本の納豆が元々藁(つと)に存在した納豆菌を利用したように、バナナの葉などに生息するテンペ菌を利用する自然な手法が面白い。

納豆に相当する無塩発酵大豆食品を作っているもうひとつの地域が、東ネパール、シッキム、ブータンなどのヒマラヤ中腹だ。そこでは、日本の大豆(=あぜ豆)のように大豆を水田のあぜに植えて栽培している。主に冬の加工となり、日本の糸引き納豆そっくりのものや乾燥品もある。ネパール語では「キネマ」と呼ばれている。そこから、文化人類学者・中尾佐助氏が提唱した仮説が「ナットウの大三角形」(=納豆トライアングル)である。

日本、ヒマラヤ、ジャワのナットウの存在が偶然の一致でなく、もしどこかからこの三地域に伝播したと仮定すれば、おのずからその仮説中心地は雲南省あたりに求められることになるだろう。そして、ナットウが伝播したということは、他の文化要素も複合して伝播したと当然推測ができる。そうなると、これら地域間の文化的共通性が予測されることになるだろう。その範囲は、当然ナットウを指標にすると、日本、ヒマラヤ、ジャワを結んだ三角形の地域になる。

参考文献:中尾佐助『料理の起源』(吉川弘文館)

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豆腐の発祥を見直す

何事についても、発祥や始祖の類は神話や伝説めいた薄靄の中に包まれていて、現在では判然としないことが多々ある。「らしい」とか「だろう」といった揣摩憶説に振り回されることなく、足元を固めることが必要だ。新説に飛びつく前に、では、現行の説は何に基づいたものだったのか、裏を取っておくこと。文献をたどり、史料を確定させた上で、何が本当に確かなことなのかを見直す作業も毎回重要になる。

実在の人物であるにもかかわらず、「豆腐を発明した」といわれることで、伝説に近い存在ともなっているのが漢の淮南王・劉安(〜B.C.122年)だ。『淮南子』の編著で知られ、漢の高祖劉邦の孫に当たる学者だが、謀反の嫌疑を受けて自殺したため、判官びいきの対象となっている嫌いもある。が、劉安自身の著作に「豆腐」の製法はおろか、その名前すら出てこない。ただ明の李時珍の著した『本草綱目』(1578年)が、劉安を豆腐の始祖と記すのみである。

6世紀の農書・料理書『斉民要術』の大豆の条にも見えなければ、隋、唐の料理の献立にも「豆腐」の名は見えない(ここで、さらなる問題は、豆腐の製法が見受けられない以前に、何の字をもって「大豆」と同定すべきか、揺らいでいる点)。しかし逆から言うと、「豆腐」という言葉がなくとも、豆腐という大豆加工品の製法を明らかに指し示すものがあればよい。故・篠田統博士が「豆腐」という字を初めて見出したのは、宋代初期の陶穀『清異録』(965年)において。そこから、豆腐は唐時代の中頃、8〜9世紀に発明されたのではないかと推測するのだが、直接的な裏付けはなかった。

『清異録』を遡る史料はないのか? 河北省満城の前漢中山王劉勝の墓で発見された石臼によって豆腐製造は可能──と、粉体と石臼研究の第一人者であった故・三輪茂雄博士がかつて主張した。河南省密県で発掘された打虎亭一号墓の東耳室南壁に描かれている豆腐製造の図を決定的な証拠と見なそうとする動きもあったが、中国の雑誌「農業考古」の編集主任、陳文華が1991年1月号で発表したものは、豆腐の図であるとの先入観をもって修正を加えたイラスト。1993年に公開された打虎亭一号墓の鮮明な写真から、孫機という学者は醸造の図と推定し、陳氏との間で再三にわたる論争を引き起こした。ちなみに、問題の工程図には(石臼や)加熱シーンが見当たらず、密県は淮南より約400キロメートルも離れている。

参考文献:篠田統、秋山十三子『豆腐の話』(駸々堂)

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はつさやか

豆腐加工に適した大豆の新品種「はつさやか」を、(独)農研機構・近畿中国四国農業研究センターが育成した──現行の主力品種「フクユタカ」より早生で、青立ち(収穫適期でも茎葉が枯れずに残る障害)や子実の裂皮が少ない。四国地域で主に栽培されているフクユタカは、収穫期が遅いことから後作の小麦の播種が遅れるなどの支障がある。また、一部の県で奨励品種に採用された「サチユタカ」はフクユタカより早生だが、青立ちが発生しやすく、適期にコンバインでの収穫が困難になる場合があるほか、品質面でも子実の裂皮が多発するなどの問題を抱えているため、生産者から早生の品種が強く望まれていた。

このたび育成された新品種、はつさやかはフクユタカよりも早生で、コンバインによる適期収穫が可能なことから、大豆─麦二毛作体系を確立し、土地利用率と農家収益を高められる。現在、香川県だけでなく、サチユタカの作付けの多い中国地方のうち島根県においても、はつさやかの導入に向けた取り組みが進められている(島根ではJAやすぎが2013年から種子を配布)。

はつさやか

はつさやかは、たんぱく質含量が高く豆腐加工適性の優れる「九州116 号」が母、耐倒伏性で多収の「タチナガハ」が父から成る交配組み合わせから育成された。成熟期はサチユタカより4日程度、フクユタカより2週間程度早くなる。収量性(子実量=1アール当たり32.5キログラム、百粒重=29.2グラム)も高く、サチユタカと同程度。また青立ちの発生が少ないため、適期にコンバイン収穫できる。故に、大豆─麦二毛作体系に対応可能とした。子実の外観品質についても、裂皮やしわが少なく、良好。

さらに、はつさやかはたんぱく質含有量(粗たんぱく質含有率=44.6%)が高く、豆腐加工適性に優れている。豆腐の硬さを示す指標である破断応力を見ても、はつさやかは1平方センチメートル当たり71グラムで、サチユタカ(=同39グラム)、フクユタカ(=同64グラム)よりしっかりした豆腐ができる。実需者による官能評価も食感、風味ともに良く、味噌、煮豆、納豆用途についても良い評価を得られているという。

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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