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こんにゃく稲荷

東京都墨田区八広3丁目(古くは吾妻町6丁目)に位置する三輪里稲荷神社は、別称「こんにゃく稲荷」という。稲荷ずしではなく、稲荷神社の方の意味だ。

御祭神は倉稲魂命(うかのみたまのみこと)。「宇迦御魂尊」とも書かれるが、「うかのみたま」とは、古代の食物(殊に稲)をつかさどる神である。慶長19年(1614)、出羽(山形県)の三山(=月山、湯殿山、羽黒山)信仰の修験道場の一つ、湯殿山の大日坊の長が、この地の旧 ・ 大畑村の総鎮守として、羽黒大神の御霊の分霊を勧請したものと伝えられる。

なぜ、三輪里稲荷神社は「こんにゃく稲荷」と呼ばれるのか? 同神社では、2月の最初の午の日に祭礼「初午祭」を執り行い、そこで喉の病気に効き、声も良くするという「こんにゃくの護符」を参詣者に授けているからだ。このお守は元々湯殿山の秘法に属するといわれ、煎じて飲めば薬効あらたからしい。同地に神社が建立されてしばらくすると、江戸市中に悪疫が流行したが、こんにゃくの護符を串に刺して周辺住民に授与したところ、病害を免れたともいう。

護符は、約7センチメートルの短冊形に切ったこんにゃくを塩茹で、青竹の串に刺して乾かす。昔は氏子が奉仕して作っていたが、現在は業者が納めているとか。こんにゃくを煎じて服用するとはどういう意味か、よくわからなかったが、乾燥して縮まった状態の護符6、7本に対し、2合程度の水とともに薬缶に入れて煎じ、その湯を頂けばよいそうだ。初午祭の時のみ、護符は生で授与される(すぐに服用しない場合は天日干しなどで乾燥して保存)。初午祭の当日は随分なにぎわいで、授けられる護符は年間1万数千本に上るといわれる。

稲荷神社と言えば、即座に油揚げの方を連想してしまう(油揚げの代わりにこんにゃくを使用した稲荷ずしもあるにはある……)が、こんにゃくの護符という形態は珍しい。だが、その発祥の地が出羽三山と聞けば、山岳信仰〜修験道のメッカであり、「六条豆腐」(2012年3月参照)の今なお作られている地域でもある。食品を乾燥保存する技術といい、こんにゃくの護符には六条豆腐と通底する要素が強く感じられる。

実は、修験道と稲荷神社は、修験道の護法で使用する神使(つまりは飯綱、管狐など≒キツネ)との縁でかなり因縁が深いのだが、稲荷から揚げに向かうのではなく、こんにゃくに結び付いたところが、なかなか興味深い。
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バチルス電池

納豆菌の学名「Bacillus natto」の「バチルス」とは、桿菌のことである(2012年3月「沢村真と納豆」参照)。棒状あるいは円筒状の形状をした細菌であり、枯草菌(Bacillus subtilis)の一種である。

「枯草菌」を『広辞苑』で引いてみると、「土壌・枯草など自然界に広く分布するグラム陽性・芽胞形成性の大型の桿菌。芽胞は数時間の煮沸に耐える。病原性はないが時に結膜炎などの原因となる。納豆菌は枯草菌の一種。ズブチルス」と明記されている。広く生息するといわれている“枯草”は、納豆の場合、稲わらに該当した訳だ。この納豆菌から発案された興味深い発明が、公開特許として出願されている――発明の名称は「枯草菌電池」(特開2012―59682)。

新日本社の出願したバチルス電池の概要を追ってみよう。水の中に電極、例えば正極に炭素棒、負極に亜鉛棒を挿入すると起電力が生じる。さて、ここで糸引き納豆(を混ぜた水)の中に同様の電極を差し込むと、ただの水の中に電極を入れた場合より大きな電力が得られるという。納豆菌が無機物を生じているためとみられ、納豆菌は枯草菌の一種なのだから、枯草菌の働きでも起電力が生じるのではないかと試行された。バチルス電池

解決手段として、稲わらを容器に入れ水に浸して5時間後に電極を差し込み、テスターに接続すると、起電力が生じた。納豆の場合と同じく、ただの水中に電極を挿入するより大きな電力を示していた。従って、枯れた植物を水に浸すと枯草菌は植物の有機物を栄養源として増殖し、水中に無機物が生じて電解質となり、多くのイオンが働いて大きな電力が生じると推察される――と説明されている。植物の有機物がなくなるまで、電解質は作られ続け、電流が流れ続けるそうだ。

食品工業分野で実用的な納豆菌より枯草菌を電池に用いる方が経済合理的なのだろうが、やはり、納豆のバチルスを使用した際の詳細な技術を押さえておこう。大豆の中には、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属元素が存在している。納豆の熟成が進むと、納豆菌の働きで無機物のストラバイト(MgNH4PO4 ・ 6H2O)が生成する。このストラバイトが水中で電解質として生成、電離し、そのイオンによって電流が生じ、電力が大きくなると推測を行っている。

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宇都宮の場合

弊社で発刊している『2012 豆腐年鑑』は豆腐業界唯一のデータブックとして、多くの統計資料などを収載している。先日、購読者の一人から問い合わせの電話が入った。2010年の「豆腐の地方別 ・ 都道府県庁所在市別1世帯当たりの家計支出金額」において、宇都宮市(2人以上の世帯)が6,918円、前年比23.56%増と大幅な伸びを示しているのはどういった原因によるものだろうか?という疑問だった。

この上げ幅は主要81都市別での最大値でもある。元々の資料は、総務省統計局「2010年家計調査報告」のデータを整理したもの。宇都宮市の場合、2010年に限って、(さらに言えば)豆腐に限っての異変なのかどうかを確認する必要があるだろう。

調査世帯の選定については、都道府県庁所在市および大都市は計51市、調査世帯数は5,436と割り当てられている。特にウエートなどを考慮しないとすれば、宇都宮市でも100世帯程度で調査が行われているものと想像される。

2010年の豆腐の家計支出を見るだけでなく、直近5か年における推移を抽出した。食料および消費支出全体の数値も製表してまとめた。すると、まず豆腐に関しては2010年が前年と比べて大幅に増加しているのと同様に、前年(2009年)は大幅減、後年(2011年)もまた大幅減を示していた。前々年(2008年)はやや増、2007年はかなり大きく減らしている。

豆腐の家計支出の増減パターンは、消費支出および食料の増減と歩調を合わせているように見える。消費支出が全体に増える時は食料〜豆腐の支出も増えるし、逆の場合は同じく減っている。ただし、上げ幅、下げ幅の差はだいぶ異なり、消費支出と食料の増減より、消費支出と豆腐の増減の幅の方が甚だしい見かけの説明は、このから出来ない。豆腐の平均価格は年ごとに下がっているのだが、購入数量の方を追いかけてみると、2006〜2011年の間で83.80丁、77.41丁、84.24丁、78.11丁、97.28丁、84.23丁……と、激しい動きが見られた。消費支出が毎年かなりの程度で増減を繰り返しているのは宇都宮だけの特徴なのか、また2010年にとりわけ購入数量が大幅に伸びた理由などについては、別の分析手法が必要か。

豆腐201207

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正真正銘の親子丼

昭和12年(1937)、盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が拡大していく時代、吉本興業と朝日新聞社が「わらわし隊」を編成して中国各地に送り出した。「わらわし隊」とは派遣演芸慰問隊の名前で、当時の空の英雄「荒鷲隊」をもじったもの。慰問演芸班の漫才のネタにも関わり、戦時下の慰問袋に収められた新作漫才集の台本を書いていたのが秋田實(1905〜1977)である。

この「読み物としての漫才」から、玉松一郎、ミス ・ ワカナの「今年は辰年」を引用しよう。物資が窮乏する中、一郎がワカナに親子丼をご馳走すると言う。材料にお金はかからず、非常に経済的と聞かされ――。

ワカナ「早速、家でもマネをさして頂きますから、料理法を教へて頂けませんか」
一郎「よろしい。まず五人分の材料に、大豆が一合と、焼豆腐が三丁。これでえゝのです」
ワカナ「豆と豆腐ですか、親子丼に?」


以下、一郎のレシピ。

「最初、豆を洗つて頂きます。洗ふと云ふても石鹸で洗はんでもよろしい。きれいに洗へましたら、味の方はすこしからい目にたいて頂きます」
「次に焼豆腐を三丁ともつぶします。つぶすと言ふても、金槌で叩いてつぶすのではありません」
「すり鉢に入れてすりつぶした豆腐をば、甘い目に煮いてもらひます」
「煮けましたら、熱い御飯に豆腐を先きにかけて、その上から、豆を振りかけて頂きます。これが僕ン處の自家製親子丼や」

豆の親子丼

お約束どおり、ワカナは「かしわと、卵を入れてこそ、名前通り親子丼と言ふのやないか」と突っ込み、対する一郎は、豆腐は大豆から作るのだから「豆が親で、豆腐が子やないか、これ程、正眞正銘の親子丼があらへんやろ」と混ぜっ返す。

時に昭和15年(1940)5月からは、週1回の“節米デー”が始まり、“国策ランチ”なども登場している。同年9月には贅沢食品禁令も出されている。そういったご時世であったことを思えば、いや、そうでなくとも、大豆と豆腐を甘辛く炊いた親子丼は結構おいしく、かつヘルシーな気もするのだが。

参考文献:『ミス ・ ワカナ 玉松一郎 漫才選集』(輝文館大阪パック社)

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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