芭蕉「月見の献立」

俳聖・松尾芭蕉のこんにゃく好きはつとに知られている。その傍証として、よく引き合いに出されるものに大きく2件あって、ひとつが「こんにゃくのさしみも些(すこ)しうめの花」(2006年9月 「芭蕉こんにゃく」参照)の句。元禄6年(1693)、蕉門十哲のひとり去来と共通の知人の死を悼んで詠んだものとされる。もうひとつが、元禄7年(1694)、中秋の名月の夜、芭蕉が門人らをもてなした際の「月見の献立」である。芭蕉の真筆になる板膳が三重・伊賀市文化財に指定され、「芭蕉翁記念館」に収蔵されているが、そのメニュー内にこんにゃくを確認できる。

正保元年(1644)、伊賀上野の赤坂町に生まれ、元禄7年に没した芭蕉だから、まさに最晩年に当たる。現在もなお古典として力を持ち続ける『奥の細道』の素龍による清書本が成立、江戸の芭蕉庵(第3次)を出立し、伊賀上野に帰郷したのが、この年だった。その秋、門人らの尽力により、故郷に「無名庵」を新たに結んだ芭蕉が、西国巡遊の旅(そして再び帰らない旅)に出る前に、中秋の名月(旧暦8月15日)を愛で、門人らと新居で風雅の宴を張った。

献立表を作ったのも芭蕉自身。主立った内容は「芋の煮しめ。酒。しょうがののっぺい。吸い物には、つかみ豆腐、しめじ、みょうがが入っている。麩、こんにゃく、ごぼう、木くらげ、里芋の煮物。香の物。肴にはにんじんと初椎茸。しぼり汁にすり山のいも。松茸の吸い物。冷めし」となる。要は、こんにゃくの煮物だろうか。単品で煮るのか、またどういった味付けになるのかまでは、さすがに読めないが、近年の料理研究家は様々なアレンジを施し、芭蕉の献立の再現を試みている。中秋の名月は別名「芋名月」というくらいだから、里芋は外せない。また、つかみ豆腐の名が見えるのも興味深い。酒さえなければ、脱俗した精進料理の趣である。

この夜、芭蕉が披露したとされるのが「名月に麓の霧や田のくもり」「名月の花かと見へて綿畠」「こよひ誰吉野の月も十六里」の3句。ちなみに若き日の芭蕉(=松尾宗房)は、半農半士の「無足人」だった。伊賀の藤堂新七郎家に出仕し、俳諧を好んだ嫡男の藤堂良忠と近習役として親しく交わったことは有名だが、その頃の実際の職掌が台所用人とも料理人とも伝える説がある。真偽はともかくとして、青年時代から料理に精通していた芭蕉像をイメージすることで、真筆の「月見の献立」から読み取れるレシピは夢幻の広がりを見せる。
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3タイプのトゥアナオ

文化人類学者、中尾佐助氏の提唱した「納豆トライアングル」(2012年1月「納豆トライアングル再考」参照)、別名「ナットウの大三角形」は納豆を指標にした日本、ヒマラヤ、ジャワを結んだ三角形の地域を指す。この地域において、納豆(=大豆発酵食品)という文化的共通性を認め得るのではないかとの仮説だが、テンペで有名なインドネシアと同じように、タイにも大豆発酵食品がある。タイの納豆は「トゥアナオ」と呼ばれ、「トゥア」は豆、「ナオ」は臭い、もしくは腐ったという意味。このトゥアナオ、タイ北部で3種類が入手できると、農学研究者の吉田よし子氏が書いている。

まず、納豆をペースト状につぶし、薄いせんべい状に広げて乾燥したタイプ。塩なし「せんべい状乾燥納豆」と塩入り「せんべい状乾燥納豆」がある。食べ方は、そのまま火であぶり野外での食事のおかず、割って甘酢漬けの野菜に振りかける、細かく割ってバナナの花のサラダと混ぜる、魚醤を加えてつぶしソース状にして生野菜に添える、麺の具を炒める時に加えてスープの味出し・とろみ付けに使用する――など。

次に、軽くつぶした納豆に塩や唐辛子で味を付けて、バナナの葉に包んでゆでたタイプ。塩味は薄く、そのまま食べるか魚醤などを混ぜてソース状にして、生野菜に付けて食する「調味蒸納豆」。保存性は良くないそうだ。同様に調製したものを蒸さずに、おこし状に固めて干した「固形乾燥調味納豆」もあり、火であぶったり、油で揚げておかずにする。

3つ目は、納豆に塩、つぶしたショウガ、唐辛子粉などを混ぜて熟成させたタイプ。納豆の香りは消え、豆味噌に近い風味になるという。現地では生の味噌状「納豆味噌」として売られているが、こちらも固めて干した「固形乾燥納豆味噌」がある。前者の納豆味噌はおかず、あるいは調味料に。固形乾燥納豆味噌は油で揚げておかずとする。

以上をまとめると、タイの納豆 ・ トゥアナオは、(1)せんべい状乾燥納豆[塩なし/塩入り]、(2)調味納豆[蒸し/固形乾燥]、(3)納豆味噌[生/固形乾燥]と大きく分類される。

参考文献:吉田よし子『マメな豆の話―世界の豆食文化をたずねて』(平凡社新書)

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蛸坊主に高野豆腐

4代目桂文我(1960〜)は桂米朝一門で、あの桂枝雀(1939〜1999)に入門した噺家。現代では演じられることもまれになった噺を掘り起こすなど、熱心な落語研究家の顔を持ち、「蛸坊主」は先代の文我(1933〜1992)から口移しで習ったという。3代目いわく「一遍も舞台にかけたことはないけど、林家正蔵(1895〜1982、8代目で後の林家彦六)師から習うた」このネタは、生國魂神社の門前に構えた小料理屋の座敷でくつろぐ老僧を中心に、筋が展開する。僧がそこで口にするのはいつも「高野豆腐にお菜の煮た物」ばかり。それも「ほんの少しだけ」と下女に気の毒がられるほど。

近頃出家した輩は内緒で酒や生魚を食べる者も多いと下女はこぼすが、泰然自若と構える僧。「私のような老僧になりますと、食べ物をたくさんいただくことは、却って身体に悪うございます。高野豆腐と、お菜の煮物を少々いただくのが一番でな」と、清廉潔癖な人品を感じさせる(加えて、町衆の楽しむ小咄に興味を示すなど、愛嬌もある)。「人は人、私は私。こちらでは高野豆腐とお菜をいただくだけで十分。それにこちらは、目でおいしくいただくことも、たくさんございますのでな」とも笑う。粗忽な女は、目で高野豆腐を食べるのかといぶかしむのだが、無論そうではない。

こうして障子を開け放すと、目の前に見事なお池がある。春は桜、夏は藤、秋は萩で、冬は椿と、その時候を目で楽しめます。季節の花を愛でながら、高野豆腐とお菜をいただきますのが、私の一番の幸せでな」。この老僧、豆腐と花に代表される日本の四季を愛してやまない、小料理屋にとっては願ってもない上客なのだ。その真隣の座敷に、柄の悪い4人の出家が乗り込んでいたようで、大声を上げ、下女や店の主に難癖を付け始める。4人の出家は「高野一山の僧侶」を自称し、幼い頃から修行に明け暮れ、生臭物を一切口にしたことがないと告げる。

重ねて、小料理屋自慢の精進料理の出汁に何を使ったか?と問い、主から「鰹節」の一語を聞き取るや、魚類という生臭物を食べさせられ、これまでの修行が無駄になった。責任は小料理屋にある。以後4人の坊主を一生涯養い、面倒を見てもらわねばならないと強弁し、まず生臭物を解禁し、酒を持って来いとのたまう。これを見聞きしていた老僧が「例えば、何かの間違いで刺し身を食しても、これを豆腐と思えば、修行の妨げにはなりますまい」など、やおら仲介に分け入るのだが……といった噺。絵に描いた大岡裁き、胸がすっとする爽快なハッピー・エンドは、生の高座でお聴きくださいませ。

参考文献:四代目桂文我『続・復活珍品上方落語選集』(燃焼社)

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「貿易統計」に見る大豆輸入価格

財務省の「貿易統計」から「品別国別表」で食品用大豆の輸入価格を算出してみよう。直近の報道発表によれば、2012年9月分までの貿易統計(確報)を閲覧できる。現行の輸入についての統計品目番号は、「実行関税率表」で確かめる必要がある。逆に、輸出の場合だと「輸出統計品目表」を見なければならない。

輸入状況を探るのだから、最新の実行関税率表2012年4月版から大豆を追いかけてみる。大豆はまず、第2部「植物性生産品」の第12類「採油用の種及び果実、各種の種及び果実、工業用又は医薬用の植物並びにわら及び飼料用植物」に含まれている。大豆種子はもちろん採油用だけでなく、「各種の」という表現に、豆腐や納豆など加工食品用などの用途もくみ取っておこう。

大豆は割ってあるかないかを問わず、播種用のもの、その他のものに大きく分かれ、いずれもさらに種子の色で二分されるので、「播種用のもの–黄白色系のもの(120110010)」「播種用のもの–その他のもの(120110090)」「その他のもの–黄白色系のもの(120190010)」「その他のもの–その他のもの(120190090)」の都合4つの統計品目番号が得られる。あくまで食品用大豆の輸入状況を見るのだから、播種用は省き、さらに量的に極めて少ない黄白色系以外のものも取り去ると、「120190010」で品目指定の上、検索をかければよいだろう。

2011年平均および2012年各月の輸入数量、輸入金額から、大豆1俵当たりの金額を単純計算して表にまとめた。

主要輸入国の輸入数量および輸入金額について触れておくと、9月までの累計に限るが、米国129万4,855トン(622億8,524万円)、ブラジル41万3,759トン(202億8,406万円)、カナダ28万4,131トン(174億9,915万円)、中国2万9,683トン(22億5,940万円)—-などとなっている。

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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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