「蒟蒻本」とは何か?

こんにゃく本」とは何か? 「蒟蒻版」とは意味合いが違う。『広辞苑』を引くと、蒟蒻版は"平版印刷の一種。ゼラチンとグリセリンを平皿に流し込んでゼリー状に固めたものに、塩基性染料で書いた原稿を転写して版を作り、これに湿り気を与えた紙を押し当てて印刷する。寒天版"とあり、寒天(版)の代わりに「もとは蒟蒻を用いたから」と具体的な理由を明記してある。

蒟蒻本は違う。『ドラえもん』の「ほんやくコンニャク」であるまいし、蒟蒻で本が出来ている訳ではさらさらない。『広辞苑』に当たると「洒落本の異称」。命名理由は「半紙本を半分にした大きさの本で、表紙の形と色とが蒟蒻に似ているから」とある。

しかし「洒落本」では、現代人にちとわかりづらい。さらに引くと"明和(1764〜1772)〜天明(1781〜1789)の頃を中心に、主として江戸で発達した小説の一様式。遊里文学で、対話を骨子とし、遊びの穿ちを主とする"と解かれている。リアルな物としての蒟蒻本に触れた体験に乏しいためか、隔靴掻痒の感は否めない。そこで、民俗学の先駆者ともいわれる山中共古(1850〜1928)考証本『砂払』を改めて手に取ろう。何を隠そう、この著書こそ、洒落本の濫読随録、すなわち蒟蒻本から当時の時代風俗を抜き書きしてまとめたもの。そもそも「砂払い」自体がこんにゃくの別名ではないか。

『砂払』は正確には「払砂録」など3篇6冊から成り、その「払砂録」序に、共古が自著に『砂払』と名付けた由来について触れている。

予は元来此類の書を好まざりしが、時代風俗を学ぶの一として(中略)、心覚へに何にとなく記し置けるもの、一冊となれり。思ふに『伊賀越』沼津の段に曰く。『しんどが利になる。蒟蒻の砂になるか』と。これこんにやくも砂を払ふの功あるを。よつて以て名とす。

とあり、しんどいことが利になる。蒟蒻が砂(=身体の中の老廃物)を追い払うように――と、江戸趣味の洒落っ気を出しての表題だったらしい。

(共古自身は)好きではないけれども、体内の砂を払うにも似た効能があると認めざるを得なかった蒟蒻本。ひょっとしたらば、共古すら蒟蒻本に没頭してしまったように、見た目のサイズや色(薄茶色の無地)がこんにゃくに似ていたばかりでなく、その実益を認めていたからこそのネーミング・センスが本来の「蒟蒻本」という名称にも表れていたのではあるまいか。遊びがメインの遊里文学だからと馬鹿にするじゃないよ、そこにはひとつの時代風俗の真実があるよ、と。

参考文献:山中共古『砂払(上)』(岩波文庫)
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納豆製造業の営業許可施設数(2012年)

厚生労働省が公表した「衛生行政報告例」のうち、2012年3月末現在の許可を要する食品関係営業施設数を地図にまとめた。全国の納豆製造許可施設数は600。前年から9施設増えてはいる。新規営業許可施設数は前年より6施設増えての21施設、廃業施設数(年度中)は2施設増えての38施設だった。



しかしながら、前回の調査では、東日本大震災の影響により、宮城県および福島県の一部地域から報告表の提出が不可能な状況。それら一部地域の数値が含まれていなかったことを考慮に入れ、今回、宮城県で許可施設数が22も増加したことに着目すると、正味、減少傾向にあると言ってよいだろう。

都道府県別で見ると、3年連続だった北海道を茨城が上回り、49施設で最多。“納豆の本場”の貫禄を見せつけた格好。北海道が48施設で追随する。3位は福島の40施設で、40施設台はこの3道県。4位に新潟の37施設、5位に青森の36施設、6位に熊本の30施設—-この3県が30施設台を保っている。納豆に関連するデータでは、東高西低のイメージが顕著だが、昔から納豆人気の高い熊本が九州で健闘している。

20施設台は、旧に復しつつある宮城(27)、山形(26)、栃木(同)の3県。10施設台は京都(17)、兵庫(同)、岩手(16)、群馬(同)、福岡(15)、埼玉(14)、東京(同)、秋田(13)、静岡(同)、千葉(12)、長野(11)、神奈川(10)—-の12都府県。

宮城を除いて、上位の顔ぶれに大きな変動はない。また島根、山口に納豆製造許可施設はない。施設数の増加を見ると、宮城以外でプラスとしたのは福島、静岡、富山の3県のみで、いずれも1施設増。前年比減としたのは14都道県で、北海道、福井の2施設が最大下げ幅に当たる。

ちなみに弊紙の推計によると、全国の納豆製造許可施設1施設当たりで約2万世帯(約21万人)、家庭消費金額だと約2億9,749万円をカバーしているとみられる。

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晦日豆腐

12月8日(あるいは2月8日)に執り行われる針供養――。日本の伝統食品には、四季折々の行事と密接に結び付いたものが少なくない。

近年「夏越の大祓」に関連付けて復活を果たした「夏越豆腐」も、その一例。ところで、ただの「大祓」と言わず、「夏越」が付く。大祓とは「古来、6月と12月の晦日に、親王以下在京の百官を朱雀門前の広場に集めて、万民の罪や穢れを祓った神事」(『広辞苑』)であって、年に2回あるため、「夏越の」と断るわけだ。

ならば、大晦日には豆腐を食べていなかったのか? 食べているのだ、これが。文献でもしっかり確認できる。

民俗学の先駆者ともいわれる山中共古(1850〜1928年)の記した考証本『砂払』は、明和〜天文年間に流行した洒落本を引用、当時の時代風俗をまとめている。—-天明五年乙巳正月、蔦屋出版、京伝作、政演画のこんにやく『令子部屋』に

○わけて紋日のうきかづ、ゆどふふの胸にこたへる晦日晦日※1の数かさなりて、大つごもりの提灯は、胸をこがすほのほとや見ん。

これに対して、共古が"湯豆腐云々とは、何にか晦日にでもかゝることありにしや"と疑義を呈し、対して友人の林若樹が『吉原大全』から"此外毎月晦日、そば切、うどん、豆腐を用ゆる等、廓中の例、事しげく、又、家風の例もさまざま※2にて、しるすにいとまらず"と引用している。

さらに天明八年戊申正月、山東京伝作『傾城〓※3』に触れた共古は、

『三十日豆腐料理』と、松葉屋瀬川、丁子屋雛鶴の処に記しあり。晦日晦日※1の湯豆腐といふは、月々の行事となりて、外の家にて致せしと見へ、他にも記しあり

とも書き付けている。

これらの蒟蒻本の記述によって、近世の遊郭などにおいては、大晦日ならず、毎月末日になると、豆腐(他にそば切り、うどんなど……)を食する習慣があったことが見受けられる。

日本豆腐協会では毎月12日を「豆腐の日」と制定しているが、毎月晦日(末日)もまた「夏越豆腐」同様に、日本の由緒正しい「豆腐の日」なのである。


※1:「晦日晦日」の2回目の晦日はユニコード「U+3031」くの字点。〱

※2:「さまざま」のざまはユニコード「U+3032」ぐの字点。〲

※3:「〓」の読みは「けい」。觽 (U+89FD/E8 A7 BD)から山を取り除いたもの、異体字。

参考文献:山中共古『砂払(上)』(岩波文庫)

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日使頭祭のこと

京都府乙訓郡大山崎町に「離宮八幡宮」なる神社が在る。石清水八幡宮の元社に当たり、八幡大神を祭神とする。

859年、奈良・大安寺の僧、行教が宇佐宮から都への帰途、山崎津で夜の山に霊光を見た。そこを掘ると岩間に清水が湧き、「石清水八幡宮」を創建。男山に神霊が分祀されたのはその後のこと。桓武天皇、嵯峨天皇の行幸での行宮があったことから、「山崎離宮」「河陽宮」と呼ばれた。この離宮八幡宮の春の例祭(毎年4月上旬)として執り行われるのが「日使頭祭(ひのとさい)」。全国の油業界関係者が参集することでよく知られている。大手の主力商品といえば、菜種油や大豆油などのサラダ油だから、大豆とも縁がある。

清和天皇(850〜880)の頃、あるいは貞観年間(859-877)、同宮の神主が長木(方油器、油木)により搾油したのが、日本での製油の発祥という。搾油器により精製された荏胡麻油は当初、神社仏閣の燈明用油として奉納され、日本各地に製油業が普及するにつれ、離宮八幡宮は朝廷より「油祖」の名を賜ることになる。荏胡麻油の製造と販売の中心地「油座」として油の専売特許を一手に持った離宮八幡宮は栄えた。「大山崎神人」と称し、石清水八幡宮へ供える油を扱うため、各国の関所を自由に通過する権利、原料の荏胡麻を独占的に買い付ける権利、油を一手に販売する権利などを有し、諸国の油商人は離宮八幡宮の許状なくして、油を扱うことは許されなかった。

当初の日使頭祭は「南祭」「藤祭」とも呼ばれ、「北祭(=葵祭)」にも匹敵する大きな祭礼だったという。だが中世こそ、荏胡麻油製造で栄えた山崎の地だけに、菜種搾油が始まるとともにその権勢も衰え、江戸時代に菜種油や綿実油が実用化されると搾油も停止した。油販売による莫大な事業収入に頼りきりだった神社の財政的基盤は弱く、その事業収入が途絶えると、離宮八幡宮は改修すらままならない有り様に陥ったという。

戦後、東京油問屋市場の金田勝次氏を中心に「油祖離宮八幡宮崇敬会」発足への活動が行われ、全国の製油メーカー、油脂販売業をはじめとした油脂関係者が参加を表明。昭和62年(1987)、「油祖離宮八幡宮崇敬会」が発足し、やがて、神事「日使頭祭」も復活することとなった。 毎年4月(本来は4月3日。あるいは4月上旬の土曜日)には、全国から100社以上もの油業界関係者が参拝し、献灯の儀、湯立の神事など、古式に則った儀式が行われている。

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Author:ぽか
通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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