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孤独リセット

終わった後から、振り返ってみて、初めて意味がわかる。
もっと正確に言うと、何かしらの予兆を読み取ってしまい、
不可逆的な時の流れに抗して、未来を先読みしていたのか?
そんなふうに、推し量ってしまう人間心理の性があります。
山川方夫(1930~1965)が昭和29年(1954)3月、
「三田文学」に発表した中編「煙突」は、彼の父の死の翌年、
昭和20年頃、15歳の山川が主人公とされていますが、
その終盤、非常に気になる2段落を以下に引用してみます。

 ぼくは彼の自殺が恐(こわ)かったのではない。くどくどと思いつづけながら、突然、それとは無関係な、全身のひきしまるようなある理解がきた。そうだ。孤独とは、だれも手を下して自分を殺してはくれないということの認識ではないのか。……そして、ぼくはぼくの孤独だけを感じた。
 そのとき、やっとぼくに恐怖がきた。それは山口という一人の他人には無縁な、ぼくだけの恐怖だった。いわばぼく自身の生命を、最後までぼく一人の手で始末せねばならないという、冷厳で絶対的な人間のさだめへの恐怖だった。


言葉が身体を裏切るような、(いや、“身体”も言葉であるならば)
過去の言葉が来るべき言葉をあらかじめ欺くかのような
イロニーを痛切に突きつけられているような気分に陥ります。
誰も自分を殺してはくれない、自分の生命は自分で始末しなければならない。
そんな当たり前の“人間”としての尊厳を嘲笑されたかのように、昭和40年(1965)、
突っ込んできた小型トラックに撥ねられ、山川は交通事故死したのでした……。
孤独は、あまりに人間的な最後の矜持でもありますが、
その負荷に耐え切れない人々にしてみれば、突然にもたらされる
孤独の“解除”は恩寵にも似るのではないか? と思わないでもなく。

参考文献:山川方夫『夏の葬列』(集英社文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
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