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不細工王子

国土中の臣民に忌み嫌われている不細工王子は、約束を守る信義の人でした。
ただ、決して約束を破るまいと肝に銘じていたために
他人と約束を交わすこと自体、滅多にないこととなりましたが。
国民らは、王子が景気の良いアドバルーンを上げないので、
遊び心の無い堅物だ、つまらぬ奴だと、鼻で嘲っていました。
王子は絶対に嘘をつかず、本当のことしか語るまいと
幼少期に固く決心しただけなのでしたが、非常に口数が少なく、
その愚鈍な外見と相俟って、阿呆扱いされることがしばしばでした。
何も見えていない、何も聞いていないふうな王子が外交使節を務めるくらいなら、
代わりにワニの置物でも持って行った方がましだと陰口さえ叩かれる始末でした。
醜い王子には腹を割って話せるような友達がおらず、
野の獣や草花さえも、彼が通るとよそよそしい態度を取るように思われました。
王子の唯一の心の慰めは、独り立ち迷ってしまった砂漠で見つけた一匹の紅蠍。
そっと大事に持ち帰り、ほの暗い王宮の一室で大切に育てていたものです。
ある時、国中に不思議な疫病が流行ると、政情不安な状況に陥ってしまい、
不穏な空気の中、王子の企んだ隠微な謀略だとの風評が広められました。
王宮の奥で、何やら怪しげな魔術の研究に耽っているらしい、
今回の疾病は王子のもたらした細菌兵器によるものだ、と。
王子を弾劾する良識派を任ずる臣民の一派は、暴動を起こすと、
彼の安らぐ私室へ押し入り、大切に扱われている紅蠍を見て、快哉を上げました。
暴徒らから奪われようとする紅蠍を懸命に守ろうとした王子は、
抗弁もせず、無言のまま、素手でつかんだ紅蠍を裸の胸に抱え込みました。
これだけは誰にも渡すまい、ただこれだけは誰にも傷つけさせまい、と。
不細工王子は蠍に刺されて死にました。その後、王国も滅んだと聞いています。
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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
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(自称)。
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