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『美しい星』再読

映画を見たことをきっかけに、原作となる同名作も文庫本で再読しました。
三島由紀夫の『美しい星』ですが、小説と映画作品との異同(主に
人物相関図の面から)についてメモ。主人公となる大杉重一郎
の一男一女から成る一家は、各人が宇宙人として覚醒していきますが、
映画でも小説でも同じく、重一郎=火星人、長男・一雄=水星人、
長女・暁子=金星人として扱われているのに対して、妻・伊余子だけは
原作での木星人が映画では“地球人”として設定されていました。
元から地球人ですから、地球人として特に覚醒するシーンはなく、
“水ビジネス”に嵌まっていくだけでしたねえ。ただ、小説の方でも
木星人ながら、政治に走る水星人、金星人とは違って、極めて中庸で
地球人に近い性格付けなので、キャラクターに大きな変更がある訳ではないです。
(そうなると、火星人は良かれ悪しかれ、ヒューマニズムを担う“文学”担当だったのでしょうか?)
映像内では謎の弁護士秘書、陰のフィクサーだった黒木克己が、小説内だと
「閣僚には入っていないが首相の椅子を狙っている高名な政治家」として、
完全に表の世界に突出した存在です。重一郎と対になり、年齢も2、3歳違い。
映画でドストエフスキー大審問官」風の重厚な問答を熱く遣り取りした
重一郎と黒木ですが、小説で重一郎と激突するのは、仙台市の大学の
万年助教授・羽黒真澄を中心とする3人組でした。地球や人類の救済に
心を悩ませる重一郎に対し、「地球をぶっこわす」ことを夢想する羽黒一派は
白鳥座六十一番星の未知の惑星”からやって来たという申告です。
羽黒一派は黒木に接近して、黒木の謎めいた立ち位置に変わりはありませんが、
映画ほど、“宇宙人”性は濃厚でありません。おそらく、原作の羽黒一派をばっさり
カットした時点で、重一郎に立ち塞がる役柄を羽黒から肩代わりさせられたと同時に、
白鳥座云々の“宇宙人”性――地球人ではないが、重一郎とは対極の思想を持つ
存在――をも付与されたものと思われます。リリー・フランキー演じる重一郎が
しつこいまでに連呼していた「太陽系連合」の名称は、原作に登場していません。
重一郎らが宇宙人であるにせよ、太陽系内惑星の住人であれば、「太陽系連合」は
畢竟“家族”の言い換えに過ぎず、映画のストーリーでも“家族の再生”を丁寧に
描出していたのが印象的でした。反して、原作内で重一郎が組織した運動の名は
宇宙友邦会」……「友邦」=UFO……(べたな洒落には触れないとしても)安直な
ヒューマニズムより、いまだ確かめられざるものへのロマンが若干勝って感じられます。

参考文献:三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説映画

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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