『TUGUMI』と弥勒
6月の「二人の読書会」のテクストは、吉本ばなな『TUGUMI』。
昨年、同作家の『ハチ公の最後の恋人』を取り上げた流れを続けて。
何だかんだ言っても“夏”の話ですし、このところ暑くもあるしで、夏を先取りしました。
恭一の犬「権五郎」をめぐる復讐譚は、詰めが甘いようですが、致し方ないですかね。
曲がりなりにもヒト1人を殺そうとした者には、その前後で何らかの変質が欲しいです。
発病~快癒~改心の経過がフラットに過ぎて、狙っているのだとしたら、ずるいな、と。
犬1匹の命、ヒト1人の命も変わりはなく、日常は何事もなく、続いていくよ、なんてね。
そういう考え方は“有り”ですし(どちらかと言えば、ぼくもそちら側に与しますが)、
ならば、この日常世界のシステムに黙って乗っかり続けるのは、どうなんだろう?と。
お前の殺意、悪はその程度なのか?と、問い詰めたくなる主人公、山本つぐみの
美少女ぶりは弥勒菩薩に譬(たと)えられます。もちろん「萬福寺」のではないですよ。
しかし、短いシークェンス内で弥勒と神様の同居……根っから汎神論的な書き手です。
☆
そんな時もつぐみは、
「おまえら、あたしが今夜ぽっくりいっちまってみろ、あと味が悪いぞー。泣くな」
とせせら笑った。その笑顔は不思議と弥勒のように見えた。
そう、つぐみは美しかった。
黒く長い髪、透明に白い肌、ひとえの大きな、大きな瞳(め)にはびっしりと長いまつ毛がはえていて、伏し目にすると淡い影を落とす。血管の浮くような細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見をしていた。
参考文献:吉本ばなな『TUGUMI』(中公文庫)
昨年、同作家の『ハチ公の最後の恋人』を取り上げた流れを続けて。
何だかんだ言っても“夏”の話ですし、このところ暑くもあるしで、夏を先取りしました。
恭一の犬「権五郎」をめぐる復讐譚は、詰めが甘いようですが、致し方ないですかね。
曲がりなりにもヒト1人を殺そうとした者には、その前後で何らかの変質が欲しいです。
発病~快癒~改心の経過がフラットに過ぎて、狙っているのだとしたら、ずるいな、と。
犬1匹の命、ヒト1人の命も変わりはなく、日常は何事もなく、続いていくよ、なんてね。
そういう考え方は“有り”ですし(どちらかと言えば、ぼくもそちら側に与しますが)、
ならば、この日常世界のシステムに黙って乗っかり続けるのは、どうなんだろう?と。
お前の殺意、悪はその程度なのか?と、問い詰めたくなる主人公、山本つぐみの
美少女ぶりは弥勒菩薩に譬(たと)えられます。もちろん「萬福寺」のではないですよ。
しかし、短いシークェンス内で弥勒と神様の同居……根っから汎神論的な書き手です。
☆
そんな時もつぐみは、
「おまえら、あたしが今夜ぽっくりいっちまってみろ、あと味が悪いぞー。泣くな」
とせせら笑った。その笑顔は不思議と弥勒のように見えた。
そう、つぐみは美しかった。
黒く長い髪、透明に白い肌、ひとえの大きな、大きな瞳(め)にはびっしりと長いまつ毛がはえていて、伏し目にすると淡い影を落とす。血管の浮くような細い腕や足はすらりと長く、全身がきゅっと小さく、彼女はまるで神様が美しくこしらえた人形のような端整な外見をしていた。
参考文献:吉本ばなな『TUGUMI』(中公文庫)
スポンサーサイト