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「はぶる」考

青木正次『雨月物語(上)全訳注』を読み直していて、はっとしました。
巻頭の「白峯」に表れ出た言葉です。シテが崇徳院、ワキが西行
       ☆
今、事を正して罪をとふ、ことわりなきにあらず。されどいかにせん。この島に(はぶら)て、高遠(たかとを)が松山の家に困(くるし)められ、日に三たびの御膳(おもの)すゝむるよりは、まいりつかふる者もなし
       ☆
白川の宮を出(で)しより、如意が嶽(みね)の嶮(けは)しきに足を破られ、或は山賤(やまがつ)の椎柴をおほひて雨露を凌ぎ、終(つひ)に擒(とら)はれて此(の)嶋に(はぶら)しまで、皆義朝(よしとも)が姦(かだま)しき計策(たばかり)に困(くるし)められしなり
       ☆
いずれも、讃岐国(香川県)に配流された崇徳院の恨み言ではあります。
「崇徳院」は落語の演題でも有名ですが、平将門菅原道真と並んで
日本三大怨霊”の一人に挙げられるキャラクターであると思い出しましょう。
科白に出てくる「(はぶ)」について、青木の現代語訳では、
「この島に流されて」、「この島に流刑に」遭ったなどとされていますが、
この意味が現代語(?)としての「はぶる」にぴたりと適合する気がしたのです。
       ☆
仲間はずれにするといった意味合いの俗語「はぶる」の語源は未詳でして、
よく「村八分にする」(の省略)や「省く」といった俗説も見かけますが、
村八分説はどうも、良く出来た後付け臭く感じてしまい、仕方ありません。
省略したというのであれば、先に「村八分にする」という言語表現が、
同様のシーンで多々使用されてきたという変遷が考えられるはず。
「あいつを村八分にしようぜ」よりも、原義はよくわからないままに口から
(古語の記憶で)「あいつをはぶろうぜ」が先に出てきて、意味を考えた時に
いろいろと付随させてしまい、混乱してしまったのではないかと思ったのです。
つまり、元々在った「はぶる」の音とニュアンスだけが生き延び、
その際に直截な物言いを避け、新たな色を付けて蘇ったのではないか?と。
       ☆
青木正次の全訳注は、小説というジャンルの心底に徹する偉業ではありますが、
オリジナルの上田秋成の言語表現における格闘ぶりも凄まじいものです。
よくぞ、【】という漢字に、「はぶる」という大和言葉を当ててきたなあ!と。
さらに秋成は大阪人ですから、現代大阪人もよく使う「放(ほ)る」=「捨てる」
と「葬る」の意味が、音として渾然一体となっていたのではないでしょうか? 
「はぶる」=「葬る」+「放る」ならば、現代俗語の「はぶる」までもう一息。
       ☆
 【】 ①せめる。とがめる。②つみする。罪をきせて罰する。③つみ。とが。④官位をさげて遠方へ流す。⑤怪しい雲気。
 ――『旺文社 漢和辞典』(1983年、重版)
 【(はぶ)】 ①死体を野山に捨てる。埋葬する。ほうむる。②火葬にする。
 【(はぶ)】 捨てる。散らす。
 ――『旺文社 古語辞典』(1983年、重版)

参考文献:青木正次『新版 雨月物語 全訳注』(講談社学術文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説落語

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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