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アガート/フレガート

敬愛する高橋源一郎先生のデビュー作(1982)『さようなら、ギャングたち』
第1部、Ⅴの章見出しが「アガートは大好きさ、フレガートが」
――となるのですが、それは作中に出てくる名前の一つでしかありません。
親が付けるのでもなく、自分で付けるのでもなく、愛する相手から付けてもらう
名前の一例として、「アガートは大好きさ、フレガートが」が挙げられていました。
大好きな小説ですから、何十遍となく読み返しているうち、昔は記憶していたはずの
アガート”と“フレガート”が、そもそも、何であったのか? すっかり、思い出せなく
なってしまったようです……最初から、純粋な呼称でしかなかったかのように。
       ☆
「アガート」と「フレガート」は美しい韻をふむ。
 女の子とその恋人は、その日運ばれてきた子供たちのなかで、いちばんかわいらしい子の話をしながら、「アガートは大好きさ、フレガートが」をする。

       ☆
元の意味が忘却の彼方に追いやられてから、随分と経ってしまいましたが、
今月の「二人の読書会」のテクストは、ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』
こちらは、もしかすると学生時代以来の読み直しやもしれませんが、主要登場人物の
一人がアガートです。“アガート”には「縞模様」の意味があります。
       ☆
 エリザベートは弟が少しは抵抗するだろうと予想していたので、あらかじめ、「ビー玉みたいな名前の女の子なの」と説明しておいた。ポールは、「それは有名な名前だ。この世で一番美しい詩のひとつのなかで、快速船(フレガート)と韻を踏んでいるんだよ」と答えた。
       ☆
ようやく、解答に近付いてきたようです。「この世で一番美しい詩」とは、
ボードレール『悪の華』の中の一篇「悲しくてさまよいの」を指していたのです。
中学生のぼくが愛唱した角川書店「カラー版 世界の詩集」ソノシート付き
『ボードレール詩集』村上菊一郎・訳)だと、「悲しそうな放浪性の」でしたが。
       ☆
 言ってごらん アガートよ おまえの心は時おり飛んで行くのか
 けがれた都会のどす黒い大洋を遠く離れて
 処女性のように青く深く澄んでいる
 きらきらと光り輝く本当の大洋のほうへ
 言ってごらん アガートよ おまえの心は時おり飛んで行くのか?

  (中略)
 客車よ わたしを連れ去ってくれ! 快速帆船(フレガート)よ さらってくれ!
 遠くへ! 遠くへ! この都会ではわれらの涙で泥濘ができる!
 ――アガートの悲しい心が 時おりこう言うのは
 本当だろうか? 「悔恨 罪悪 苦悩から遠く離れて
 客車よ わたしを連れ去ってくれ! 快速帆船
(フレガート)よ さらってくれ」


参考文献:高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』(講談社文芸文庫)
       コクトー『恐るべき子供たち』(光文社古典新訳文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
好きな言葉は「ごちそうさま」。

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