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どうでもええわけがあるものか

11月の「二人の読書会」のテクストは、森見登美彦『太陽の塔』です。
ぼくとしては、結構、読み返している作品。
平成15年(2003)の第15回「日本ファンタジーノベル大賞」受賞作。
Xマス目前、ふられた京大生の周辺をめぐる一騒ぎを描いた青春文学。
好きな小説ではあるのですけれども、今回、読み直してみて
やはり、ひとつの疑問が……関西人、いや、大阪人でなければ、
気にならない可能性大ですが、「太陽の塔」の立ち位置です。
「太陽の塔」は大阪府吹田市に建っています。
何と言いますか、大阪臭くない土地柄なんですよねえ。
「京都市内だろうと、××区は京都でない」と言い切る京都人ほど、
偏狭ではないつもりですけど、いわゆる“大阪”という気性とは異なります。
もちろん、吹田が大阪っぽくないからといって、断然、京都でもありません。
作中に翻って、京都・四条河原町における“ええじゃないか騒動”が
ストーリー上の中心に位置していることを確認してしまいますと、
「太陽の塔」が無くとも、話自体は成立するのです! 恐ろしい。
前々から薄々察していましたが、「太陽の塔」は関係なかったではないか!
(「太陽の塔」は京都でもなく、大阪でもなく、“異界への入り口”)
再確認できた衝撃は大きかったです。ただし、主人公の惚れてしまった
水尾さんのこよなく愛する対象が「太陽の塔」であるところがポイント。
それがあろうが無かろうが、何であろうが、どうだってよいにせよ、
どうだってよいからこそ、(惚れた以上)どうでもよい訳ではなくなって
……簡単に言うと、自身の“失恋”を頑として認められない男子が、
どうでもええわけがない、どうでもええわけがあるものか」と
受け入れていく過程を、微笑ましい(痛々しい)ギャグを交えながら、
照れ隠し気味に描いた小説でしょ。魅力の半分は「太陽の塔」のお陰かな。
       ☆
 私は溜め息をついて振り向いた。
 青々と繁る木々の向こうに、太陽の塔が立っていた。
 太陽の塔は、やはり、想像よりもひとまわり大きかった。偉大というほかなかった。彼女が惚れ込み、こうして大切に抱え込んでいるのも無理はないと思い、しばらくの間、私は太陽の塔に祈りを捧げるがごとく低頭した。敗北すべき所を心得た所作であると我ながら思う。


参考文献:森見登美彦『太陽の塔』(新潮文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説美術建築

★ 2018年10月に読んだ本 ★

『角川 短歌 9月号 2018』(角川文化振興財団)
『プラド美術館展』(読売新聞東京本社)
 ……「ベラスケスと絵画の栄光」展のミニ図録。絵画は可能であれば、
 原寸(もちろん、実物には如かず)、なるべく原寸に近いサイズで
 観るに限るのですが、持ち運び、場所を取らない絵葉書サイズも、
 手元に置いておくには便利と言えば便利。まさにインデックス代わり。
『おでかけ美術館&博物館[関西版]』(京阪神エルマガジン社)
 ……「おとなのエルマガジン vol.6」となります。
 展示物だけでなく、展示している“箱”の重要性を考えましょう。
カルヴィーノ『魔法の庭・空を見上げる部族 他十四篇』(岩波文庫)
 ……マイ・クラシック。昔、読んでいた「ちくま文庫」に5編追加。
 何度読んでも新鮮な読後感。常にここから出発するという気持ち。
三島由紀夫『絹と明察』(新潮文庫)
 ……ハイデッガー研究者・岡野というキャラクター設定が秀逸。
 『青の時代』のような破綻は無く、『宴のあと』のように俗に流れず、
 非常にバランスが良い。三島の作品中でもかなり傑作の部類。
別冊プロレス編集部『プロレス リングの聖域』(宝島社)
 ……「宝島」のプロレス本も昔は面白かったんですけどねえ。
 「ストロング小林が語ったプロレスラーの晩年と現実」は、
 ムック本のネタとしてそぐわないと言うか、弱いと言うか。
加治将一『西郷の貌』(祥伝社文庫)
平野暁臣『「太陽の塔」新発見!』(青春出版社)
 ……作者は誰? 「現代芸術研究所」代表取締役、「岡本太郎記念館」館長
 と、調べてみたらば、平野暁臣は岡本太郎のパートナー=岡本敏子の甥。
 なるほどと得心。岡本太郎関係の出版絡みで、どこでも名前が出てきますね。
『角川 短歌 10月号 2018』(角川文化振興財団)
編者=生きた建築ミュージアム大阪実行委員会
 『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2018 公式ガイドブック』
  (生きた建築ミュージアム大阪実行委員会)

『太陽の塔ガイド』(小学館クリエイティブ)……平野暁臣・編著。
三島由紀夫『葉隠入門』(新潮文庫)……マイ・クラシック。

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
好きな言葉は「ごちそうさま」。

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