『八つ墓村』と中之島
先月の「二人の読書会」のテクストは、横溝正史『八つ墓村』で、
何の拍子にか、映画版を動画で目にしてしまった訳ですよ。
複数回の映画化を経ている原作ですけれども、野村芳太郎・監督
バージョンの製作は昭和52年(1977)。金田一耕助を渥美清が
演じていることで知られる作品です。正直、“寅さん”のイメージが
きつくて、金田一耕助ファンにとっては、どうもなぁ……という映画
ではありますが、面白いので大丈夫。小説が怪談噺の皮を被った
モダン・ミステリーだったのに対して、思い切り、真逆に振り切って、
合理性をかなぐり捨てた怨霊譚に、脚本が書き改められているから。
原作に登場する里村兄妹が存在を抹消されたため、ストーリー展開も変化。
そもそも、**子は多治見(原作では「田治見」)辰弥と結婚すれば
よいではないか?と、犯人の動機も成立しなくなっている状況ですが、
寅さんが終盤、まともな推理をぶん投げ、全部“祟り”のせいに
するから、全然、無問題。丸2日(昭和52年8月4~5日)間に、和歌山
~大阪~滋賀~京都~再び大阪~丹波篠山を回る、無茶苦茶な過密
スケジュールを強行して何をやったか?と言えば、戦国時代の武将、
尼子義孝に連なる家系を辿ってみた身元調査に過ぎませんから……
しかも、調べている最中で、祟りに怖気づいたらしく、もう1人の方の
確認を放棄していますからね。土俗ホラーと割り切れば、愉しい限り。
☆
野村芳太郎版の特徴は、時代設定を現代(撮影当時)としたことにも
あり、そのため、当時の街並みなどが確認できるという点で、史料的な
価値も有します。多(田)治見辰弥が訪ねる諏訪法律事務所の所在地は
大阪市東区北浜3丁目97-1……大阪人ならば気付きますが、船場を含む
大阪市東区は昭和18年(1942)の時点で法人区でなくなり、平成元年
(1989)には南区と統合され、中央区となっているのです。井川丑松が
諏訪法律事務所で毒殺されたことで、辰弥が取り調べを受けたのは
「北浜警察署」……位置的には現在の「天満警察署」か。映画開始早々
10分頃に登場します。同署から中之島へ移動するシークエンスで、当然、
橋を渡りまして、中之島公会堂、「中之島図書館」、あるいは上を走る
阪神高速道路との角度などから、まず間違いなく「鉾流橋」でしょう。
図書館の西方には3代目の大阪市庁舎! 塔屋が否が応でも目に入る
片岡安らの実施設計で、近世復興式。3代目が取り壊されてしまうのが
昭和57年(1982)6月11日からなので、フィルムにも映っている次第。
となると、やはり「鉾流橋」に違いなかったのですが、味も素っ気も無い
欄干の意匠など、現在の鉾流橋とは全くの別物のようです。調べていくと、
戦争中の金属供出などにより、かつて(昭和4年完成)の高欄、照明灯が
失われていたそうで、昭和55年(1980)に高欄や照明灯、煉瓦敷きの歩道
(=辰野式リスペクト)などが整備された模様。1977年公開『八つ墓村』に
3代目・大阪市庁舎、整備前の鉾流橋の姿が映り込んでいる訳でした。
参考記事:大阪市 - 鉾流橋
何の拍子にか、映画版を動画で目にしてしまった訳ですよ。
複数回の映画化を経ている原作ですけれども、野村芳太郎・監督
バージョンの製作は昭和52年(1977)。金田一耕助を渥美清が
演じていることで知られる作品です。正直、“寅さん”のイメージが
きつくて、金田一耕助ファンにとっては、どうもなぁ……という映画
ではありますが、面白いので大丈夫。小説が怪談噺の皮を被った
モダン・ミステリーだったのに対して、思い切り、真逆に振り切って、
合理性をかなぐり捨てた怨霊譚に、脚本が書き改められているから。
原作に登場する里村兄妹が存在を抹消されたため、ストーリー展開も変化。
そもそも、**子は多治見(原作では「田治見」)辰弥と結婚すれば
よいではないか?と、犯人の動機も成立しなくなっている状況ですが、
寅さんが終盤、まともな推理をぶん投げ、全部“祟り”のせいに
するから、全然、無問題。丸2日(昭和52年8月4~5日)間に、和歌山
~大阪~滋賀~京都~再び大阪~丹波篠山を回る、無茶苦茶な過密
スケジュールを強行して何をやったか?と言えば、戦国時代の武将、
尼子義孝に連なる家系を辿ってみた身元調査に過ぎませんから……
しかも、調べている最中で、祟りに怖気づいたらしく、もう1人の方の
確認を放棄していますからね。土俗ホラーと割り切れば、愉しい限り。
☆
野村芳太郎版の特徴は、時代設定を現代(撮影当時)としたことにも
あり、そのため、当時の街並みなどが確認できるという点で、史料的な
価値も有します。多(田)治見辰弥が訪ねる諏訪法律事務所の所在地は
大阪市東区北浜3丁目97-1……大阪人ならば気付きますが、船場を含む
大阪市東区は昭和18年(1942)の時点で法人区でなくなり、平成元年
(1989)には南区と統合され、中央区となっているのです。井川丑松が
諏訪法律事務所で毒殺されたことで、辰弥が取り調べを受けたのは
「北浜警察署」……位置的には現在の「天満警察署」か。映画開始早々
10分頃に登場します。同署から中之島へ移動するシークエンスで、当然、
橋を渡りまして、中之島公会堂、「中之島図書館」、あるいは上を走る
阪神高速道路との角度などから、まず間違いなく「鉾流橋」でしょう。
図書館の西方には3代目の大阪市庁舎! 塔屋が否が応でも目に入る
片岡安らの実施設計で、近世復興式。3代目が取り壊されてしまうのが
昭和57年(1982)6月11日からなので、フィルムにも映っている次第。
となると、やはり「鉾流橋」に違いなかったのですが、味も素っ気も無い
欄干の意匠など、現在の鉾流橋とは全くの別物のようです。調べていくと、
戦争中の金属供出などにより、かつて(昭和4年完成)の高欄、照明灯が
失われていたそうで、昭和55年(1980)に高欄や照明灯、煉瓦敷きの歩道
(=辰野式リスペクト)などが整備された模様。1977年公開『八つ墓村』に
3代目・大阪市庁舎、整備前の鉾流橋の姿が映り込んでいる訳でした。
参考記事:大阪市 - 鉾流橋
スポンサーサイト