the Tethered

Jordan Peele 監督の2作目『Us』を鑑賞しました。
アカデミー賞・脚本賞を獲得した第1作『GET OUT』
(2017)も凄かったのですが、第2作も期待を裏切らず。
やはり、ホラーの仮面を被った全くの別物という構造、
どちらかと言えば、社会的・政治的なメッセージが
強いだろうという……エンタメなんですけれども。通常、
ジャンル映画としてのホラーで、ドッペルゲンガーを
持ち出されるとなると、私的な妄想に堕してしまい、
内に籠もってしまうパターンが大半でしょうに、“Us”と
複数ですから、外に開かれ、矢継ぎ早にアクションが
展開され、間然とするところなく。しかも、この“Us”は
“U.S.”=United States も意味していますねえ。主人公・アデレード一家の前に
現れたレッド一家(地下から現れたクローン人間らは、皆、赤い服を着ています)が、
何者かと問われて、「アメリカ人」と答えていますし。前作が鋭く抉った人種差別
以上に、今回、俎上に載せられているのは、貧困問題です。1986年の公開イベント
「Hands Across America」が痛烈な皮肉とともに取り上げられ、米国を分断する
貧困問題を浮かび上がらせています。地下に追いやられた the Tethered は
安穏と暮らす富裕層(映画内ではプチブル・レベルに留まりますが)の裏返しであり、
小市民もまた、いつ、セーフティ・ネットからこぼれ落ち、貧困層に身を転じるか、
わからない世の中ですから。テザード=“鎖に結び付けられた者”とは、地上に生き、
地下に生きる者も実際のところ、一蓮托生といった意味合いで、自分らの安寧を
守るとあらば、テザードを殺しまくるアデレード一家の方こそ、恐怖の対象である、と
いった見方さえ可能です(それ故、ラストの衝撃も論理的には正当化され得ます)。
“魂”を持たないと決め付けたのは誰? そういう境涯に追い込んだのは何者?
誰かが幸せになる代わりに、誰かが地獄に落ちる……そんな社会システムは駄目
でしょ。しかも、本物の富裕層はそのシステムの外部にいるのでは?という疑惑。
☆
マイケル・ジャクソン「Thriller」のTシャツや、警察を呼ぼうとして音声アシスタント
オフィーリア(Amazonで言えば「Alexa」)に呼びかけると、N.W.A.「Fuck Tha
Police」が流れるなど、音楽的な小ネタも満載で楽しいのですが、ぐっと来たのが
劇中、何度も繰り返される Luniz「I Got 5 On It」(1995)でして、メロウなG-
ファンクは最高! ぶつ切りにされたモチーフが、クライマックスのフラッシュバック
(血みどろのシーンとバレエ)でも緊張感をもって煽り……もう20年以上も昔なのか。
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