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階段用語

 下りてきて道路に出ると、ふり返って入り口を見た。四、五段の階段の左横にある低い壁は、その階段をつかう八つの家庭の郵便受けが掛っている。それは新たに掛けられたもので、なにもなかった昨日まで、その余白である壁は私には、格好のキャッチボール相手だった。いまや郵便受けに塞がれたことを見て取った視線は、その右に並ぶ階段に転じていた。
 横幅は広いが、ちょうどストライクゾーンくらいの階高ではないか。ここにボールを投げるとどういうことになるのか。と、幼い頭は考えた。
 ほぼ真横から見るので、踏面
(ふみづら)はほとんど見えていない。蹴込(けこみ)部分だけが見えている。もちろん、踏面、蹴込、蹴上(けあげ)段鼻(だんばな)などという用語を、この子供は知らない。
       ☆
小説を読む愉しみの一つ(ぼくにとっては大きな快楽)に、
知らない言葉に触れるという体験があると思われ、だからこそ、
一見、文学にそぐわないように映る異ジャンルの語彙が眩しく、
小説に遠心力を与えるものだと管見しているのですが、建築も
そうですよね。“建築”が美術の一領域を確固として占拠すると
体感できたのが個人的に遅かった分、建築用語は刺激的です。
引用は平出隆日の階段――《遊歩の階段》の設計公式つき」から。
足を載せる水平の段が踏面、その先端が段鼻、段と段の間の
垂直面が蹴上、段鼻から奥まった部分が蹴込(板)となります。
蹴上も蹴込もほぼ同じではないか?と混乱しそうになりますが、
寸法的にみると、垂直方向の蹴上=蹴込板(高さ)+踏板(厚さ)。
となり、水平方向で、踏板=踏面は蹴込板に覆い被さる格好です。

参考文献:青木淳[選]『建築文学傑作選』(講談社文芸文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説建築

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
好きな言葉は「ごちそうさま」。

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