蜆川の恋

恋の大海(だいかい)を、かへも
干されぬ蜆川、思ひ思ひの思ひ
歌。心が心とゞむるは門(かど)行灯
(あんどう)の文字が関、浮かれ騒
(ぞめ)きのあだ浄瑠璃、役者物まね
流行(はやり)歌二階座敷の三味線
に、ひかれて立ち寄る客もあり
(北新地河庄の段)
☆
11月8日(金)11時から、「国立文楽劇場」にて、「十一月文楽公演」第1部を鑑賞。
「心中天網島」を全段、愉しめました。今年の「中之島文楽」でも予習済みの演目
なので、安心です。しかし、この演目、(近松門左衛門の心中物全般に言えますが)
ピュアな恋愛物とは懸け離れていますよねえ。紀の国屋小春と紙屋治兵衛の
馴れ初めも何もすっ飛ばして、いきなり、心中ありきでストーリーが始まっていますし、
「曽根崎心中」も同様、恋が成就できない云々より、商売人の男が面目を潰された
ことの方が大きく受け取られていますから。それこそがリアルと言えば、それまで
ですけれども。街の雑踏に影も形も見えなくなった「蜆川」の辺で繰り広げられた
痴情沙汰――と思えば、それはそれで物悲しくもなり。人間はいろいろな物事に
絡め取られていて、純粋な一念に凝り固まることも許されず、身動きさえ取れず。
様々な諸条件の縛りを受けて、生かされるのも、死にゆくのも、径庭は無いのかな。
☆
恋情け、こゝを瀬にせん蜆川、流るゝ水も、行き通ふ、人も音せぬ丑三つの、
空十五夜の月冴えて、光は暗き門行灯、大和屋伝兵衛を一字書き
(大和屋の段)
☆
「中之島文楽」から引き続き、竹本織太夫が前面に押し出されています。
北新地河庄の段の後半のみ、吉田簑助が小春を遣っていました(他は
吉田簑二郎)。治兵衛は桐竹勘十郎。河庄の後、25分休憩でしたか。
「えびす亭」に駆け込んで、ハーフ丼(カルビと鶏肉)を頂きましたよ。
天満はぼくの地元なので、面映い気すらある天満紙屋内の段では、女房
おさんがほぼ主役。人形遣いは豊松清十郎。丁稚三五郎の主遣いで、
吉田玉勢が笑いを取っていました。奥を語っていたのが豊竹呂太夫。
大和屋の段の切が豊竹咲太夫、三味線が鶴澤燕三。小春と治兵衛が
曽根崎新地を脱け出して、堂島伝いに堀川を越え、網島(現在の桜宮~
京橋の辺り)の「大長寺」に至る“道行名残の橋づくし”で、幕を閉じます。
☆
小春はうちを抜け出でて
互いに手に手を取り交はし
「北へ行かうか」
「南へか」
西か
東か行く末も心の早瀬蜆川流るゝ月に逆らひて足を、はかりに
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