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弁慶格子

喜田川守貞『守貞謾稿』(近世風俗志)の
巻之十九〔織染〕、「弁慶縞」の項を引きます。
       ☆
 経緯図のごとく織るを弁慶と云ふ。白紺あるひは紺茶、また紺と浅木等、紺茶を茶弁けい、紺浅木を藍弁慶と云ふ。小なるは二、三分の筋、大なるは一幅を半白半紺、緯これに准ずあり。異名して豆腐縞と云ひ、浴衣にあり。
       ☆
夏祭浪花鑑(なにわかがみ)は住吉鳥居前の段から
始まりましたが、次の場(釣船三婦内の段)で登場した
団七九郎兵衛と一寸徳兵衛の浴衣が、柿色と藍色の
格子柄の浴衣、すなわち、「弁慶格子」でした。大きな
升目で、縦と横の縞が同じ色の格子柄でして、団七の
色目(柿色)の場合、特に“団七縞”と呼ばれています。
ここで問題。豆腐が四角いのはともかくとして、正方形
と限ってよいものかどうか? 長方形もまた四角形です。
歌舞伎化された「義経千本桜」に登場する“いがみの
権太
”の衣装について、悩ましい解説を読みました。
以下、犬丸治「ほくろ・人相書・一文笛 ~ 歌舞伎に
描かれた『いがみの権太』」から引用してみましょう。
       ☆
その(三代目尾上菊五郎)孫で明治の名優五代目菊五郎を経て今に伝わった「音羽屋型」は精緻を極める。最初の出で権太が着る弁慶縞の単衣は、格子の大きさが縦一寸二分、横一寸とわざと長方形にしている。別名「奴豆腐」というが、この方がスラリとして形が良く見える、というのである。
       ☆
「豆腐縞」という時の「豆腐」と、「奴豆腐」の「豆腐」の
形は、正方形/長方形として区別されていたのか? 
一部の調理用語辞典などで、3㎝角に切った豆腐を
“奴”と呼ぶといった記述が見られるようですが……
2分(約6.06㎜)の違いでは、遠目によくわかりません。
長方形だから「奴豆腐」の別名があるという風に誤読
させられそうな文章ですけれども、1寸は約3.03㎝。
別名「奴豆腐」は単に「豆腐縞」の言い換えで、権太の
着ている弁慶縞が白黒格子ですから、白地部分を白い
豆腐に見立てて、「(奴)豆腐」と呼んでみたのでしょう。
冷や奴等の“奴”のサイズは豆腐縞に由来する訳です。

参考文献:喜田川守貞『近世風俗志(三)』(岩波文庫)
       『第169回=文楽公演 令和5年1月 国立文楽劇場』(独立行政法人日本芸術文化振興会)
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テーマ : 伝統芸能
ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 文楽豆腐

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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
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