妹山背山


劇場」での「4月文楽公演」
(第170回)を鑑賞に出掛け
ました。文楽協会創立60
周年記念とあって、「妹背山
婦女(おんな)庭訓」が通し
狂言で上演されるのです。
4月公演だけでは終わらない
のですが、楽しみで、楽しみで
ならず。第1部は初段の大序・
大内の段/小松原の段/
蝦夷子(えみじ)館の段。25分
休憩の後、二段目の猿沢池の段/鹿殺しの段/掛乞(かけごい)の段/万歳の段/芝六
忠義の段――で幕。通して、出遣いという訳ではないので、出遣いの段に来ると、ぐっと
盛り上がります。久我之助(こがのすけ)は吉田玉佳、雛鳥は吉田一輔が主遣い。ぼくの
応援している吉田玉勢は宮越玄蕃、吉田玉志は蘇我入鹿……どちらもヒールだなあ。
近松半二が立作者となる この演目、江戸時代の風俗、価値観が混入していますし、
史実的にはどうにもならない代物に見えますけれども、そこに目を瞑れば、固唾を呑む
しかない(三段目まで続く)えげつない物語が進行していきます。雪見の宴を行う蘇我
蝦夷子の館で、蝦夷子を上回る大ヒール・入鹿の登場シーンは格好良過ぎました。
荒巻弥藤次を遣っていた桐竹紋秀が、笑いを堪えていましたが、何に反応したのかな。
☆
14時30分頃に第1部が終演。劇場内で弁当が販売されたり、ロビーでの食事が賑わう
など、新型コロナウイルス感染症の終息も間も無いのでしょう。久しぶりに「マイティ・
ルゥ」へ足を運ぶも、14時半がラスト・オーダーだったようで、ランチ営業終了。劇場へ
戻り、「文楽銘菓」の「白太夫」、「弥陀六」、「団七」を買い求め、1個を摘まみました。
15時開演の第2部は、「妹背山婦女庭訓」三段目の太宰館の段/妹山背山の段。
大序では、御簾の内で太夫と三味線が次々と入れ替わりながらの演奏でしたが、
山の段では、上手だけでなく、下手にも出語り床が設けられています。“妹背山”と
一口に申しましても、実は吉野川で分かたれ、舞台も大和国(下手)の妹山、紀伊国
(上手)の背山に二分されるのです。上手では、大判事を豊竹呂太夫、久我之助を
竹本織太夫、下手で、定高(さだか)を竹本錣太夫、雛鳥を豊竹呂勢太夫が語るという
何とも贅沢な布陣(織太夫は、第1部の万歳の段において、療養中の豊竹咲太夫の
代役も務めていました)。人形役割では、大判事清澄が吉田玉男、後室定高が吉田
和生。久我之助と雛鳥の悲恋は、“ロミオとジュリエット”に例えられたりもしますが…
…いえいえ、親の手で首を切られたり、切腹の介錯をされたりした挙げ句、生首を
並べての女雛男雛ですから。グロテスクにも程があります。江戸時代の観客も、
多分に、ホラー感覚を愉しんでいたはずと睨んでいます。忠義だ、何だと言いつつ、
唯の“看板”ではなかったのでしょうか? ともあれ、花見も碌に行けなかった今春、
舞台上で吉野川両岸の妹山・背山に咲き誇る桜を観ることが出来て、何よりでした。
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