忍法「肉豆腐」
身も蓋もない言い方をしますと、ぼくは司馬遼太郎よりも
山田風太郎が好きです。遼太郎を手に取る時、頭の
どこかに “教養”だとか、“お勉強”だとかいった意識が
付きまとうのですが、風太郎だと、げらげら笑いながら、
ひたすらに読むことが快楽となります。適当に選んで
読み始めた『外道忍法帖』で、「豆腐」の名を冠した
忍法に出喰わしたので、以下に記録しておきましょう。
同作は風太郎忍法帖の第6作。由井正雪配下の甲賀
忍者の1人、弟子丸銅斎が甲賀忍法「肉豆腐」の使い手。
☆
その刀身は閃光のごとく銅斎の胸をつき刺した。鍔(つば)もとまでつらぬいた手応えが、まるで流動体のように柔かいのに、騎西半太夫がよろめいたとき、銅斎の両腕はそれを待っていたように半太夫の頸にかかっていた。
「鉄砲の弾さえ役にたたぬ甲賀忍法肉豆腐をよく見なんだのか。うぬが伊豆組のひょろひょろ忍者であることは先刻承知、男に化けたこの女通辞から法王の鈴を奪ったら、うぬも始末して立ち去ろうと思っていたのだ」
と、銅斎は笑いながら、半太夫を締めつけた。
「おれは張孔堂組の弟子丸(でしまる)銅斎、教えてやってももう遅いが」
☆
「張孔堂」は、由井正雪(1605?~1651)の開いた軍学塾。
謎に包まれた正雪の出自の由来は、『くノ一忍法帖』を読め(嘘)。
☆
役人たちが恐怖の眼をむいたのは、当然だ。忍法「肉豆腐」――実に弟子丸銅斎は、全身の皮膚、筋肉、内臓、骨の組織を一瞬に膠質(こうしつ)に変じて、刀瘡(とうそう)のあともとどめぬ忍法者なのであった。
参考文献:山田風太郎『外道忍法帖』(河出文庫)
山田風太郎が好きです。遼太郎を手に取る時、頭の
どこかに “教養”だとか、“お勉強”だとかいった意識が
付きまとうのですが、風太郎だと、げらげら笑いながら、
ひたすらに読むことが快楽となります。適当に選んで
読み始めた『外道忍法帖』で、「豆腐」の名を冠した
忍法に出喰わしたので、以下に記録しておきましょう。
同作は風太郎忍法帖の第6作。由井正雪配下の甲賀
忍者の1人、弟子丸銅斎が甲賀忍法「肉豆腐」の使い手。
☆
その刀身は閃光のごとく銅斎の胸をつき刺した。鍔(つば)もとまでつらぬいた手応えが、まるで流動体のように柔かいのに、騎西半太夫がよろめいたとき、銅斎の両腕はそれを待っていたように半太夫の頸にかかっていた。
「鉄砲の弾さえ役にたたぬ甲賀忍法肉豆腐をよく見なんだのか。うぬが伊豆組のひょろひょろ忍者であることは先刻承知、男に化けたこの女通辞から法王の鈴を奪ったら、うぬも始末して立ち去ろうと思っていたのだ」
と、銅斎は笑いながら、半太夫を締めつけた。
「おれは張孔堂組の弟子丸(でしまる)銅斎、教えてやってももう遅いが」
☆
「張孔堂」は、由井正雪(1605?~1651)の開いた軍学塾。
謎に包まれた正雪の出自の由来は、『くノ一忍法帖』を読め(嘘)。
☆
役人たちが恐怖の眼をむいたのは、当然だ。忍法「肉豆腐」――実に弟子丸銅斎は、全身の皮膚、筋肉、内臓、骨の組織を一瞬に膠質(こうしつ)に変じて、刀瘡(とうそう)のあともとどめぬ忍法者なのであった。
参考文献:山田風太郎『外道忍法帖』(河出文庫)
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