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三島の人間椅子

三島由紀夫ほど、私小説から距離を置こうとする一方で、
如何なる作品においても、自分自身の個人的な趣味嗜好を
随所に、執拗なまでに開陳してやまない作家も珍しく、
興味深いお人柄とは見受けられます。十代に書かれた
初期の短編「祈りの日記」、あるいは「椅子」において、
語り手の設定自体は異なりながらも、同一の嗜癖を
伸びやかに描出しています。何ら、悪びれることも無さそうに。
それが、三島少年が愛してやまなかった“人間椅子”です。
快楽は極めて私的。その人でなければわからない淫靡さを蔵します。
昭和16年(1941)8月21日には、同じ素材で、その物ズバリの
「真白な椅子」も起筆されており、どれだけ、好きだったのか?と。
       ☆
 いよいよ我慢がしかねますときには、わたくしいつも、松本さん、やす子くたびれちゃった、と申しまして、その場にたちどまって催促をいたします。またお椅子? と松本さんはそこがどこであろうとかまわずに、まっ白な看護服のかるいかさかさした音を立ててしゃがんでくれました。わたくしは、赤い散歩靴を空にうかせて、そのまっ白な光ったお椅子に、ちょこなんとこしかけました。
       ☆
「ねえ、お椅子」と私がねだった。
「また? 甘ったれやさん」
 看護婦は路傍に蹲踞した。その膝の上に私は腰を下ろした。
 私は今日まであれだけ心地のよい椅子というものを知らないのである。糊の利いた眩ゆい白さの裾が、座ると腰のまわりにどんな椅子カバアよりも流麗にふっくらとひろがって、彼女の散歩用の下駄の湿った鼻緒を隠す。この椅子はまた暖かみと、しじゅう爪先で安定をとっているための軽い揺動を併せもっている。


  
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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