鈴木三重吉の湯豆腐

鈴木三重吉(1892〜1936年)は、広島県生まれの小説家であり、児童文学者。雑誌『赤い鳥』を創刊し、芥川龍之介、小川未明、菊池寛、北原白秋、佐藤春夫、島崎藤村、谷崎潤一郎ら贅沢極まりないメンバーを執筆陣にそろえた。同誌に掲載された白秋の童話や自由詩は、人気を呼んだ。日本の「児童文化運動の父」とも呼ばれた三重吉は、夏目漱石の門下生で、我の強さは酒癖の悪さに表れた。酒の肴にやかましかったが、それだけ三重吉の料理に関する文章は細かく、洗練されている。「湯豆腐と冷奴」というエッセーから、さわりの部分を抜粋する。

宅での料理法。いずれにも絹ごしは不可。普通の豆腐でも昆布のダシで少しの間煮れば柔かくなる。普通鍋の中に昆布をしきっ放しにし、その中へ豆腐を入れるが、それでは昆布のダシが十分に出ないうちに豆腐を食うわけになり、味もなく柔かくもならず。ダシは別に作りおくを可とす。ダシの作り方は一升の水へ昆布を大一枚ぐらい(どっさり)入れ強烈な火でぐつぐつ三十分も煮て五合に煮つめ、どんぶりに取り、豆腐の鍋へ補充することになる。それ故、人数を計り一度に食うだけ数えて入れ、中身まで温かになりし頃、早く引上げて食う。煮えた豆腐が鍋の中に停滞しないこと肝要。シタジは普通、湯呑なぞを豆腐鍋のまん中に入れ、かつおぶしの粉と生醤油を入れてすましている人多し。宅では、シタジは水二合へかつおぶし粉を沢山入れ、強火で五勺に煮つめ、それへ生醤油一合半、みりん茶さじ半分を入れてさっと煮て下す。五秒位、このとき醤油を一分間も煮ると最早ダシとして失敗す。このダシを少しずつ、豆腐鍋の中の湯呑に入れ、温まったとき豆腐の上にレンゲでかける。鍋の湯呑の中のシタジへ豆腐をつけては皿にとる人あれど、それではダシには段々に湯が入りまずくなる。豆腐を皿にとり薬味を上にかけ、鍋の汁少々を豆腐の横から皿に入れ(豆腐の上からかけると豆腐が水っぽくなる)然る後シタジを、薬味をかぶれる豆腐の上にかけて進める。

……これで、まださわりの部分。三重吉の湯豆腐へのこだわりは、まだまだ続く。元々、ある友人から三重吉宅の湯豆腐の作り方を尋ねられての手紙の返事だったらしい。湯豆腐の話は巻紙で2間余りに及んだという。「私は東京流の料理は好かない。甘いのが厭だ。上方流のあっさりしたものが好きである」という三重吉ならではの、湯豆腐への執着心が強烈だ。

参考文献:嵐山光三郎『文人暴食』(新潮文庫)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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