どじょう豆腐、再び
豆腐の中に生きたどじょうを潜り込ませて作る「どじょう豆腐」に対して、吉行淳之介が疑義を呈している件には前回(2009年2月「どじょう豆腐」)触れた。吉行は「熱いナベの中に豆腐とドジョウを入れると、ドジョウが暴れすぎるのでもぐりこまれた豆腐が毀れてしまう。また、ナベの水をしだいに熱くすると、ドジョウがぐったりしてしまうのか、豆腐にもぐりこまない」というアポリアに行き着き、どじょう自らが豆腐の中に入って煮えてくれるどじょう豆腐の存在は「机上の空論」と断定するに至った。
この難問に嵐山光三郎が奮然と立ち向かう。しかし、「泥鰌豆腐というのは鍋のなかに豆腐と泥鰌を入れて煮るもので、泥鰌が熱さに耐えきれず豆腐の中に入りこむから、それに味醂、砂糖、醤油を加えて味をつける。ぼくが試したところ、泥鰌は熱さで暴れまくって豆腐を崩してしまい、そのまま豆腐の横で煮えてしまった」。
やはり嵐山も「どうもうまくいかないから、その俗説は嘘だ」と思う。だが、自ら包丁を握って料理を作る嵐山は、勇猛果敢なチャレンジを繰り返す。ある好事家も「やれば出来る」と励まし、試行錯誤をこつこつと続ける。ここは“素人庖丁”の腕の見せ所。周囲から様々なアドバイスも得た。
「まずぬるま湯の中に生きた泥鰌を放ち、そこへ冷えた豆腐を入れて徐々に熱していけば、おのずと泥鰌は豆腐へ入るという。湯の中に少量の酢を入れるという説もあり、さっそく私は豆腐二丁と泥鰌二十匹を買い求めて試してみた。豆腐一丁に対し泥鰌十匹で二回試したが、やはりうまくいかない。火加減が悪いのだろうかと思うのだが、泥鰌にも問題がありそうだ」――魚屋は「ちかごろの泥鰌は(養殖で)根性がねえや」といまいましそうに言うので、値の張るどじょう“地黒の飛び大”を買い求めて、さらに試してみた。
そうして行き着いた先は……。
「玉村豊男氏に『泥鰌のお尻を突けばいい』と聞いていたのでその通りにすると、泥鰌の勢いがよすぎて豆腐を突き抜けてしまった。玉村流は、豆腐の腹にちょっと穴を開けて、そこへ泥鰌の頭を突っこみ、尻尾を箸で突つくというものだ。過保護という反省心がよぎったが、どっちみち食べてしまうのだからと思いつつ、突つき始めると、女房と息子が帰ってきて、ぼくは『異常性格者だ』と批難された。女房子供はいつの時代も研究の敵だ」
――そのような事態を避けるために、「泥鰌豆腐を作る秘訣は、女房子供が寝静まった深夜に限る」と。
参考文献:嵐山光三郎『素人庖丁記』(ランダムハウス講談社)
この難問に嵐山光三郎が奮然と立ち向かう。しかし、「泥鰌豆腐というのは鍋のなかに豆腐と泥鰌を入れて煮るもので、泥鰌が熱さに耐えきれず豆腐の中に入りこむから、それに味醂、砂糖、醤油を加えて味をつける。ぼくが試したところ、泥鰌は熱さで暴れまくって豆腐を崩してしまい、そのまま豆腐の横で煮えてしまった」。
やはり嵐山も「どうもうまくいかないから、その俗説は嘘だ」と思う。だが、自ら包丁を握って料理を作る嵐山は、勇猛果敢なチャレンジを繰り返す。ある好事家も「やれば出来る」と励まし、試行錯誤をこつこつと続ける。ここは“素人庖丁”の腕の見せ所。周囲から様々なアドバイスも得た。
「まずぬるま湯の中に生きた泥鰌を放ち、そこへ冷えた豆腐を入れて徐々に熱していけば、おのずと泥鰌は豆腐へ入るという。湯の中に少量の酢を入れるという説もあり、さっそく私は豆腐二丁と泥鰌二十匹を買い求めて試してみた。豆腐一丁に対し泥鰌十匹で二回試したが、やはりうまくいかない。火加減が悪いのだろうかと思うのだが、泥鰌にも問題がありそうだ」――魚屋は「ちかごろの泥鰌は(養殖で)根性がねえや」といまいましそうに言うので、値の張るどじょう“地黒の飛び大”を買い求めて、さらに試してみた。
そうして行き着いた先は……。
「玉村豊男氏に『泥鰌のお尻を突けばいい』と聞いていたのでその通りにすると、泥鰌の勢いがよすぎて豆腐を突き抜けてしまった。玉村流は、豆腐の腹にちょっと穴を開けて、そこへ泥鰌の頭を突っこみ、尻尾を箸で突つくというものだ。過保護という反省心がよぎったが、どっちみち食べてしまうのだからと思いつつ、突つき始めると、女房と息子が帰ってきて、ぼくは『異常性格者だ』と批難された。女房子供はいつの時代も研究の敵だ」
――そのような事態を避けるために、「泥鰌豆腐を作る秘訣は、女房子供が寝静まった深夜に限る」と。
参考文献:嵐山光三郎『素人庖丁記』(ランダムハウス講談社)
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