嫁入り道具に豆腐一本

意見をしても少しの手応えもなく、効き目のないことを俗に「豆腐に鎹(かすがい)」という。柄が悪くなると、「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ」という表現もある。これらは、豆腐がいかに柔らかい食品であるかという証左である。

豆腐の柔らかさの秘密の一端は、その水分にあろう。「五訂増補日本食品標準成分表」を見ると、例えば木綿豆腐で100グラム当たり86.8グラム、絹ごし豆腐で同89.4グラムの水分を含んでいる(2007年2月「成分から見た豆腐の種類」も参照)。豆腐を冷凍乾燥することで水分を取り除くと、堅い凍り豆腐(高野豆腐)になるわけだが、豆腐の起源があるとされる中国にも、堅い豆腐は存在する。上海自由市場を訪れた嵐山光三郎はこう記す。

上海自由市場で見た豆腐は、直径一メートルはあろうかと思うタイヤのような豆腐だった。木綿ごしどころか、押すと指のあとがつく粘土の固さで、腐乾(フウガン)という豆腐の燻製もあった。この固さなら、豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまうことも出来そうだ。これは豆腐を醤油に漬けて味を染みこませ、角切りにして燻し乾したものだ。胡麻油を塗ってまた燻し、これを繰り返す。薫豆腐というのもあり、これは豆腐をよく乾かし、塩漬けにして、また乾しあげ、胡麻油を塗って燻製にしたものだ。豆腐の削り節ともいうべきもので、『続豆腐百珍』二十八に「ろくじょう」としてあるのがこれにあたる。但し、日本の場合は胡麻油を塗っていない。

五訂増補日本食品標準成分表で凍り豆腐の水分は100グラム当たり8.1グラムとあるが、薫豆腐はさらに水分量が少ないのではなかろうか。ここからアイデア無尽蔵の素人庖丁、嵐山の妄想が突っ走る。

この薫豆腐は、擂って粉にし、白飯の上に振りかけてもいいし、野菜の上に振りかけてもうまい。キャンプに持って行って削れば野菜とのあえものも忽ち出来る。こいつを擂粉木にしたらいかがであろうか。山椒の木の擂粉木を使うと、仄かに山椒の風味がうつるが、豆腐の擂粉木ならば豆腐の風味が残る。カチンカチンに乾したとはいえ、元は豆腐なのだから擂れば豆腐の粉の山となる。一家に一本豆腐の擂粉木があれば、蛋白質は十分だ。賽の目に刻んで炒め物にしてよし、防犯上のバットにもなる。これで殴られてのびちまえば、強盗は、豆腐の角に頭をぶつけて死ぬことになる。娘の嫁入り道具に是非一本持たせてやりたい。

参考文献:嵐山光三郎『素人庖丁記』(ランダムハウス講談社)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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