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Viridian

大阪市を舞台とした小説のアンソロジーを読んでいて、
何となく惹かれた柴崎友香『ビリジアン』を通読。
ちょっと前の“大阪”の描写がさりげなく、良かったですよ。
個人的に、何度も読み返してしまうのは“”の登場場面。
       ☆
 わたしの街には川が流れていた。無数の自転車が沈んでいた。水が黒いから、沈んだ自転車は見えなかった。底からわいた気泡が弾けて、晴れた日でも小雨の日みたいな波紋が水面に絶え間なく浮かんでいた。
 川には賑やかな橋が架かっていた。戎橋という名前だった。通称で呼ぶ人もいたが、嫌いだから一度も言ったことはないし、ここにも書かない。
 戎橋。に向かって歩いていた。大黒橋のたもとには段ボールと元はなんだったかわからない細い鉄格子でできたハウスがあり、住人のおっちゃんが犬を飼っていた。(中略)
 御堂筋を渡って道頓堀に入るころには、青空があまりにも美しいし、夏の朝はさわやかだし、難波に来たのも楽しかったから、浮かれてなんでも輝いて見えた。解体命令を出されたまま使われ続けている古いビルの一階の洋服屋に並ぶ原色のTシャツも全色ほしいような気持ちになった。十七歳だったから、そういうことは度々あった。すべてが正しい気がした。
 戎橋の薄茶色のタイルと灰色のコンクリートの境目も鮮やかに見えた。ごみがたくさん落ちていた。楽しいから別によかった。待ち合わせしたキリンプラザの前を見ると、五、六人が集まってなにかを覗き込んでいた。

       ☆
潔癖症かな?と一瞬案じますが、女の子には嫌われる名称でしょうか。
ぼくは、たまに通称の「ひっかけ橋」で呼んでしまうこともありますが。
また、ここに描かれている戎橋は先代に当たり、当今の戎橋は
平成19年(2007)に架け替えられた物です。昔の“ひっかけ橋”の
イメージがいまだに払拭できないぼくにとって、作中の戎橋は
どうにも懐かしい橋の面影です。「KPOキリンプラザ大阪」も
十年ばかり前に取り壊されています。探しても見つかりませんから。

2017_06_23_千本松大橋 続いて、大阪市大正区の「千本松大橋」。
 界隈は、現在もあまり代わり映えしない光景の
 ような気がします……SF映画の近未来都市を
 思わせる工場群。そこに加わる「千本松渡し」。
        ☆
 すぐそばには橋があった。この街と外をつなぐ
 橋のうち南側の四つは、原料を運ぶ大型船が
 下を通れるように高いところに渡さなければ
 ならなかった。特に造船所が近いこの橋は、
 三十メートル以上の高さがあった。狭い土地で
 そこまで上っていくための両側はループ
 なっていた。上から見たら眼鏡みたいだから
眼鏡橋」と呼ばれていた。橋は巨大で、だからその下は薄暗かった。


参考文献:柴崎友香『ビリジアン』(河出文庫)
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

tag : 小説

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ビリジアン

単行本と違って、
文庫本のカバー・デザインは安易だと思うの。
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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
好きな言葉は「ごちそうさま」。

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