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狸汁について

「狸汁」を『広辞苑』で引くと、「狸の肉に大根・牛蒡などを入れて味噌で煮た汁。こんにゃくと野菜を一緒にごま油でいため、味噌で煮た汁。仏家での代用とした精進料理」と明解に定義されている。

元来、日本は文明開化以前にさかのぼってみると、殺生をしてはならない、肉食もならないというお国柄であった。仏教が伝来し、国家宗教的なポジションを確立し始めた奈良時代前後、獣類の殺生や獣類の肉を食べることを禁じる勅令がしばしば発布されて以来のことである。そうして明治の世になるまでは、日本の一般的食習慣として獣肉食全体を忌避するようになっていた。

ただし、それは建前とも受け取れるタブーであり、日本的な精神の下では厳格な禁令として作用せず、家畜は駄目だが野生動物は良い、といった曖昧な形を取った。「薬食い」などという習慣は、本音と建前の使い分けの好例ではなかろうか。

さて、問題のタヌキである。元々は本物のタヌキの肉を用いて作ったというが、精進料理としてみても、仏法を護持する立場の僧が獣肉を食するわけにはいかない。そこでタヌキ肉の代わりに、こんにゃくを用いたのが狸汁なのだという。

安永期(1770年代)の俳人、小栗百万の著した『屠竜工随筆』では、狸汁について「狸を汁にて煮て食ふには、其肉を入れぬ先、鍋に油を別ていりて後、牛蒡、蘿蔔(だいこん)など入て煮たるがよしと人のいへり、されば菎蒻などをあぶらにていためて、ごぼう、大こんとまじへて煮るを名付け狸汁といふなり」と説明されている。

『豆腐百珍』以降の「百珍」ブームに乗って、弘化3年(1846年)に出版された嗜蒻凍人『蒟蒻百珍』でも狸汁は紹介されている。「前方の通りにして 味噌しる 大根おろし 又はきらずなどせり二分きりはらりと入べし 吸物にもよし」とある。

「前方の通り」とは先に載った「小鳥もとき」のように「湯煮し 乱にちぎり 香油にて揚 もつとも色のつくほどよろし」とするこんにゃくの調理法のことを指す。こんにゃくを油でいためるのは、こんにゃくの中から余計な水分を出す効果的な方法だが、そこからさらに汁物に仕立て上げるところが面白い。

参考文献:浅田峰子『新・こんにゃく百珍』(グラフ社)
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