愛媛の「いずみや」
幕末の風俗をつづった日記『天言筆記』で触れられている稲荷寿司が、おからを詰めていたように、近世ではおからを使ったおから寿司の存在が珍しくなかったようだ。
享和2年(1802)に刊行された『名飯部類』では、「つなし雪花菜鮨」の名が見え、これはおからをすってから醤油で煎りつけ、山椒の粉を少しずつ混ぜ、おからを魚の腹に詰める物。江戸時代も中期、しばしば財政難に見舞われた徳川幕府は節約・節倹を勧めたことから、コメの代わりにおからを使用した料理が推奨された。そのため、全国各地で大分・臼杵市の郷土料理「きらすまめし」のようなおからレシピが考案され、愛媛で今なお愛されるおから寿司も誕生している。今治地方の「いずみや」と南予の「丸ずし」である。
「いずみや」は、砂糖を効かせた酢に漬け込んだ小魚の背に、甘酸っぱく空煎りしたおから、生姜、麻の実などを入れた物。魚が大ぶりな場合は、三枚に下ろした魚の身で俵形のおからを巻き込む。
なぜ「いずみや」と呼ばれたかといえば、別子銅山を開発した豪商 ・ 住友家が伝えたとの説。住友家の屋号が「泉屋」だった。住友家の屋号がなぜ「泉屋」か?についてもいくつか説がある。いわく、住友家に南蛮吹き(粗銅と鉛の合金から銀を含んだ鉛を分離する工程)を教授した南蛮人の名が「白水」で、その2字を合わせて「泉」とした。いわく、住友家の業祖 ・ 蘇我理右衛門の信仰していた五条天神の夢告に「子孫繁盛を願うならば、センという字を付けよ」とあって、「泉」の字を当てた。いわく、理右衛門の父、平兵衛の出身地が和泉国(泉州)だった……。
「いずみや」と同じおから寿司が、南予では「丸ずし」あるいは「ほうかんむり」と呼ばれる。こちらでは、材料の魚に小鯛、イワシ、アジ、コノシロなどが用いられる。享和3年(1803)から文化3年(1806)にかけて編まれた浅野高造『素人包丁』にも、同名の「丸ずし」が見られるが、頭を付けた魚を酢締めにして、腹に鮨米を詰めて形を整えた物と記されている。このコメの代わりにおからを使えば、南予の「丸ずし」の出来上がりだ。「丸ずし」の「丸」とは、元々魚を丸ごと使うといった意味合いだったのだろう。
ちなみに、「いずみや」(=丸ずし、ほうかんむり)は、農林水産省の選定する「農山漁村の郷土料理百選」1,644品のひとつに選出されている。
参考文献:土井中照『愛媛たべものの秘密』(アトラス出版)
享和2年(1802)に刊行された『名飯部類』では、「つなし雪花菜鮨」の名が見え、これはおからをすってから醤油で煎りつけ、山椒の粉を少しずつ混ぜ、おからを魚の腹に詰める物。江戸時代も中期、しばしば財政難に見舞われた徳川幕府は節約・節倹を勧めたことから、コメの代わりにおからを使用した料理が推奨された。そのため、全国各地で大分・臼杵市の郷土料理「きらすまめし」のようなおからレシピが考案され、愛媛で今なお愛されるおから寿司も誕生している。今治地方の「いずみや」と南予の「丸ずし」である。
「いずみや」は、砂糖を効かせた酢に漬け込んだ小魚の背に、甘酸っぱく空煎りしたおから、生姜、麻の実などを入れた物。魚が大ぶりな場合は、三枚に下ろした魚の身で俵形のおからを巻き込む。
なぜ「いずみや」と呼ばれたかといえば、別子銅山を開発した豪商 ・ 住友家が伝えたとの説。住友家の屋号が「泉屋」だった。住友家の屋号がなぜ「泉屋」か?についてもいくつか説がある。いわく、住友家に南蛮吹き(粗銅と鉛の合金から銀を含んだ鉛を分離する工程)を教授した南蛮人の名が「白水」で、その2字を合わせて「泉」とした。いわく、住友家の業祖 ・ 蘇我理右衛門の信仰していた五条天神の夢告に「子孫繁盛を願うならば、センという字を付けよ」とあって、「泉」の字を当てた。いわく、理右衛門の父、平兵衛の出身地が和泉国(泉州)だった……。
「いずみや」と同じおから寿司が、南予では「丸ずし」あるいは「ほうかんむり」と呼ばれる。こちらでは、材料の魚に小鯛、イワシ、アジ、コノシロなどが用いられる。享和3年(1803)から文化3年(1806)にかけて編まれた浅野高造『素人包丁』にも、同名の「丸ずし」が見られるが、頭を付けた魚を酢締めにして、腹に鮨米を詰めて形を整えた物と記されている。このコメの代わりにおからを使えば、南予の「丸ずし」の出来上がりだ。「丸ずし」の「丸」とは、元々魚を丸ごと使うといった意味合いだったのだろう。
ちなみに、「いずみや」(=丸ずし、ほうかんむり)は、農林水産省の選定する「農山漁村の郷土料理百選」1,644品のひとつに選出されている。
参考文献:土井中照『愛媛たべものの秘密』(アトラス出版)
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