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蔵ごと焼け!

タケノコのいちばん美味しい調理法は、竹山ごと焼くことだと、『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲がどこかで語っていたが、みそ田楽のいちばん美味しい食べ方は(豆腐を蔵に押し詰めて)みそ蔵ごと焼くことではないか? そんな妄想に浸らせてくれる江戸落語の演目が「みそ蔵」だ。

みそ屋の吝兵衛は、その名(けちべえ)の如く、骨の髄からケチ。雇い人に賄う食事のおかずは、具が大きい・小さいのレベルではなく、最初から具無しのみそ汁のみ(みそは商売道具)。破れることを嫌い、綿の入った布団には寝ない。さらに、金がかかるからと独身生活を貫いた。だが、それなりの身上持ちだから、世間も放っておかず、結婚しなければ付き合いも取引もやめると脅され、さすがの吝兵衛も嫁をもらうことになった。

結婚後も金の要る子供は作るまいと頑張っていたけれど、どこで気を許したものか、ついつい女房が妊娠してしまった。出産費用のことを考えて青くなる吝兵衛だが、相談相手の番頭は女房を「里へ帰せ」と名案を授ける。子供が産まれるまで女房の実家に面倒を見てもらえば、ただで済む。そうして十月十日が経過して、里から子供が産まれたとの知らせ。お供を連れて吝兵衛は里へ出掛けて行った。留守中、火事にでも遭ったら大変。大切なみそ蔵の目塗りをきっちりするように、番頭に言い付けるが、そこでも「土でなく、みそを使えば、乾いた時にご飯のおかずになる」と、吝兵衛は一味違う。

吝兵衛が店を空けると、これまでろくな物を食べてこなかった店の者が皆、「帳簿をごまかして、何か美味しい物を食べさせてくれ」と番頭に懇願した。懸命に働いても具の無いみそ汁だけの日々はあまりに気の毒であるし、確かにこれほど絶好の機会はない。番頭は刺し身、鯛の塩焼き、寿司など、雇い人らの好物を注文し、みそ屋に配達させるのだ。大宴会の始まりだ。ただ田楽は焼きたてが良いからとこだわって、豆腐屋に2、3丁ずつ持って来いと指図した。豆腐横丁(201105)

しかし、好事魔多し。女房の実家に泊まるはずの吝兵衛が突然、みそ屋に帰ってきた。番頭らは慌てて食べ物を隠し、すっとぼけるが、ばれてしまう。怒鳴りまくる吝兵衛の下に、「焼けてきました」と豆腐屋が注文の田楽を持って来る。ところが、火事だと思い込んだ吝兵衛は「どこから?」と問い直す。「豆腐屋です。後もどんどん焼けます」と答える豆腐屋。開けた店の表戸から田楽みその焼けた匂いが漂い、大慌ての吝兵衛が叫ぶ。「しまった。みそ蔵に火がついた!」

参考文献:立川志の輔選・監修、PHP研究所編『古典落語100席─滑稽・人情・艶笑・怪談』(PHP文庫)
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たまに「考える人」、歴史探偵。
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