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紅葉豆腐の謎

安楽庵策伝の『醒睡笑』「巻之五」に「紅葉」という語を洒落に用いたエピソードが見られる。東の奥より都にのぼりたる人あり。さる古寺に立寄り院主に参会し、物語など時過ぎけるまま、菓子持ち出でて小姓を呼び、「いかにもお茶をもみぢにたてよ」とありしを、客、「なにたる仔細にや」と問ふ。「ただこうようにといふ事なり」と。

お茶を「紅葉(もみじ)」にたてるという言葉遊びの様が描かれている。「紅葉(もみじ)」=「紅葉(こうよう)」=「濃くよく」たてるという意味である。ここで思い出されるのが、近世の黄表紙に登場した妖怪、豆腐小僧の特徴――豆腐小僧の持った盆の上に載った豆腐には、紅葉の葉が付いている。これもまた「紅葉(こうよう)」=「買うよう」という洒落だという説が一般的。だが『川傍柳』に載る古川柳「豆腐に紅葉これといふ言はれなし」が指摘するように、「買うよう」ならば、別に何だってよいではないか。棒手振りの商いにしたって、豆腐でなくとも、納豆、蒟蒻などより取り見取り。

「紅葉(買うよう)」と結び付けられるものが、なぜ、豆腐でなければならなかったのか? 
紅葉豆腐の謎

明治5年(1872)に発行された『豆腐集説』なる書物がある。片桐寅吉・述、榊原芳野・記による豆腐の名称、由来、名産地、種類、製造法、調理法などが記録され、近世の豆腐に関する貴重な資料。製造用具を図と共に掲載したページでは、型箱の底板のが描かれ、「〓樹」の葉に似た穴があるのは水切りを良くするためという説明書き。「〓樹」とは、まさしくモミジ、カエデを指す。つまり、紅葉豆腐は、「紅葉」の洒落から作られた後付けのイメージではなく、元々、豆腐に付いていた型箱の底板の跡をモミジに見立てたことになる。

貞享元年(1684)刊の大阪・堺市の地誌『堺鑑』には、堺の豆腐は名物で「紅葉豆腐」と名付けられているとの記述がある。ここでも堺名物の「桜(鯛)」に対する紅葉、「買うよう」の地口などの理由付けが図られるが、元々、モミジめいた模様が豆腐に記されていたと考えるのが自然であろう。ところで堺は、安楽庵策伝が文禄3年(1594)から2年ばかり正法寺第13世住持として過ごした土地でもあった。策伝の時代に、紅葉豆腐があったかどうか。

※「〓」は「木」偏+「戚」

参考文献:安楽庵策伝『醒睡笑(上)』(岩波文庫)
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たまに「考える人」、歴史探偵。
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