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西六条の妖怪

青木鷺水(1658〜1733年)は京都の人で、江戸時代前期の俳人・浮世草子作者。彼の『御伽百物語』の巻3「西六条の妖化并杣が家の道具ゆへもなきに動きはたらきし事」という怪談話に、豆腐のお化けが登場する。あの“豆腐小僧”がなぜ豆腐を持っているのか系譜がよくわかっておらず、「大頭」や一つ目小僧、狸、河童など、他の妖怪のバリエーションのひとつではないか?と勘繰られないこともないのに対して、「西六条の妖怪」で姿を現すのは正真正銘、豆腐の妖怪である。

17歳の頃から京都で奉公していた吹田屋喜六が、西六条寺内の四本松町に住まうようになった。女房も持ち、2人の娘もできた。喜六は昔から川釣りを好んでいたが、ある日、「鰻に似ていながら毛があり、亀にも似ていながら大きな顎がある。なんとも妖しい生き物」を釣り上げてしまう。見世物にでもしようと家に持ち帰ったところ、やがて喜六の家に様々な怪異現象が頻発するようになる。怪しげな化け物は「九郎」と名乗り、既に姉娘と契りを結び、喜六の家の婿だと言うのだが、その霊威で豆腐の妖怪が出現するシーンは以下のとおり。

賭事にも腕にも自信のある連中を呼び集め、銭を賭け酒を呑みなどして夜がひたすら更けるのを待つうちに、喜六は客を軽くもてなそうと、豆腐をとりよせ自らまな板にのせて刃をあてた。するとこの豆腐が人のように立ち上がり、ゆらゆら歩くうちに小さな腕さえ生えてきて、骨牌をしている人の輪に割り込むと「俺にも一銭くれよ」と高い声をはりあげる。これには男たちも肝を潰して逃げ出したが、喜六ひとりはこの腕をつかんで豆腐に唾を吐いた。
豆腐の妖怪
結局、九郎という化け物は北野の真言僧・智光の秘咒に倒れる。九郎の死体は「墨のように真っ黒で、牛の子ほどの大きさ」、「ただ黒革の袋に似て口も目もない塊」だったという。その後、妹娘の方も九郎の弟「四郎」に取り憑かれるのだが、やはり智光の剣によって屠られた。

しかし、この九郎、四郎というクリーチャー、H・R・ギーガーにデザインしてもらいたいほど、なかなか魅力的だ。

参考文献:高田衛[編著]『大坂怪談集』(和泉書院)
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たまに「考える人」、歴史探偵。
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