「陶然亭」の湯豆腐(2)

前回からの話の続き。中国文学史の泰斗、青木正児(1887〜1964年)の小説と読み紛う名エッセー「陶然亭」から、湯豆腐について。酒道楽・食い道楽ならば、ぜひとも足を運びたくなる桃源郷のような店のたたずまいから、お品書きから懇切丁寧に縷々と語ってくれるのである。鴨居に懸かった扁額に「淮南遺法」と大書されているように、自信満々で「ここの料理の呼び物が湯豆腐 ・ ちり鍋にあることを標榜」している店なのだ。はて興味津々に、「特色があり」「亭主の創製にかかる自慢物の一つ」といわれる「陶然亭」の湯豆腐の詳細に迫っていこうか。

「湯豆腐はまず豆腐の品質が吟味されていたことは勿論であるが、豆腐を煮る出汁とこれを浸して食べる漬け汁とに新機軸を出していた。煮出汁は昆布出汁に葛を少々溶かしたのを用いるのが普通であるが、陶然亭のは更に野菜ソップを加えてあった。しかもこのソップたるや廃物利用で出来たもので、主として酢物や鍋物に使う蔬菜のゆで汁に蔬菜の皮や切れ端を入れて煮出したものであるというから、ますますその着想の妙が嘆称される」

この野菜ソップ(=スープ)は、まるで現代の(一部)ラーメン・マニアを狂気乱舞させる魅惑の混濁スープのようにも読める。個々の材料の原形をとどめないまでに煮込んだ、しかもその選択は融通無碍というか、天衣無縫というか。淡白な豆腐の味を生かすために、ともすれば湯豆腐のだしが透明系に偏りがちな逆を突いているようだ。が、「陶然亭」亭主の着想は、やはり漬け汁のセレクトで最も称賛されるべきではないか。常道を離れるようで、精進の道は外していない。

「亭主の考では湯豆腐は精進料理だから、いっそこれも鰹節を使わない方が好かろうと思うので、その代りに『六条豆腐』を用い、少しばかり『味の素』を補っているということであった。六条豆腐は、あるいは鹿茸豆腐とも書いて、『雍州府志』などにも見えている古法で、昔は精進料理の鰹節どころに用いたのであって、豆腐の薄くへいだのに塩を十分振って夏の天日に乾し固めたものである。この店ではこのほかに野菜の生酢や浸物にも花鰹代りにこれを使っていたが、知る人は稀で皆首をひねった」

六条豆腐については、2012年3月「六条豆腐」を参照。

参考文献:青木正児『華国風味』(岩波文庫)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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