晦日豆腐

12月8日(あるいは2月8日)に執り行われる針供養――。日本の伝統食品には、四季折々の行事と密接に結び付いたものが少なくない。

近年「夏越の大祓」に関連付けて復活を果たした「夏越豆腐」も、その一例。ところで、ただの「大祓」と言わず、「夏越」が付く。大祓とは「古来、6月と12月の晦日に、親王以下在京の百官を朱雀門前の広場に集めて、万民の罪や穢れを祓った神事」(『広辞苑』)であって、年に2回あるため、「夏越の」と断るわけだ。

ならば、大晦日には豆腐を食べていなかったのか? 食べているのだ、これが。文献でもしっかり確認できる。

民俗学の先駆者ともいわれる山中共古(1850〜1928年)の記した考証本『砂払』は、明和〜天文年間に流行した洒落本を引用、当時の時代風俗をまとめている。—-天明五年乙巳正月、蔦屋出版、京伝作、政演画のこんにやく『令子部屋』に

○わけて紋日のうきかづ、ゆどふふの胸にこたへる晦日晦日※1の数かさなりて、大つごもりの提灯は、胸をこがすほのほとや見ん。

これに対して、共古が"湯豆腐云々とは、何にか晦日にでもかゝることありにしや"と疑義を呈し、対して友人の林若樹が『吉原大全』から"此外毎月晦日、そば切、うどん、豆腐を用ゆる等、廓中の例、事しげく、又、家風の例もさまざま※2にて、しるすにいとまらず"と引用している。

さらに天明八年戊申正月、山東京伝作『傾城〓※3』に触れた共古は、

『三十日豆腐料理』と、松葉屋瀬川、丁子屋雛鶴の処に記しあり。晦日晦日※1の湯豆腐といふは、月々の行事となりて、外の家にて致せしと見へ、他にも記しあり

とも書き付けている。

これらの蒟蒻本の記述によって、近世の遊郭などにおいては、大晦日ならず、毎月末日になると、豆腐(他にそば切り、うどんなど……)を食する習慣があったことが見受けられる。

日本豆腐協会では毎月12日を「豆腐の日」と制定しているが、毎月晦日(末日)もまた「夏越豆腐」同様に、日本の由緒正しい「豆腐の日」なのである。


※1:「晦日晦日」の2回目の晦日はユニコード「U+3031」くの字点。〱

※2:「さまざま」のざまはユニコード「U+3032」ぐの字点。〲

※3:「〓」の読みは「けい」。觽 (U+89FD/E8 A7 BD)から山を取り除いたもの、異体字。

参考文献:山中共古『砂払(上)』(岩波文庫)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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