「舟弁慶」の豆腐

落語の世界の猛女筆頭として名を挙げられるのが、「舟弁慶」のお松。演題にも入っている「弁慶」はんこと、喜ィ公の妻である。喜六(=喜ィ公)が、なぜ「弁慶はん」だの「けべんさん」だの呼ばれているかといえば、いつも人のお供ばかりしているから。そこへ相方の清八がやって来て、舟遊びに誘う……という噺の流れなのだけれど、拙稿では触れない。落語は生で聴くのが最上でもあるし。ここでは喜六、お松夫婦の豆腐をめぐる日常風景を点描しよう。

お松っつあんこと、お松には、異名が多々ある。誰彼となくよくしゃべるので「雀のお松」、恐るべき嬶天下を揶揄して「雷のお松」。その恐怖をお松に隠れて舟遊びへ向かう途中で、喜六が清八に語る――お松に「こちの人、晩のおかずにするのやよってに、焼き豆腐買うてきとう」と頼まれた喜六、「よっしゃ」と笊(いかき)を持ってすっ飛んで行くが、慌ててこんにゃくを買ってきてしまう。お松の顔色が変わったもので、「すぐ替えてもろてくるわ」と飛び出すが、また間違えて、葱を買って帰る喜六。聞いている清八も「念の入った慌て者やなァ」と呆れてしまう。

その時、お松はニタッと笑う。「ああ、おおきに、はばかりさん。さあ、こっちへおいなはれ」。猫撫で声で、喜六を呼び寄せ、その首筋をぐっとつかむと、奥の間へずるずると。「うかうかしてるさかいに、こんな間違いができるのや。今日は土性骨入るようにしたる」と折檻タイム。喜六の着物を脱がし、うつむけにして、背中へ大きな灸をぎょうさん据える。堪らず喜六が「熱いわーい」と泣き出せば、井戸端へ引きずっていき、頭から水を浴びせる。「冷たいわーい」と叫べば、再び灸……火責め、水責めの繰り返しのうちに、喜六はようやく焼き豆腐を思い出したとさ。

口数が多く、男勝りのお松だが、フォローしておけば、世間付き合いなど如才なくこなせる外面の良さもある。喜六の友達の清八にだって、きちんと愛想を振りまいている。長々と続くおべんちゃらの後には、「井戸水の冷たいので手ぬぐい絞って来るよって、汗拭いてやったらどうや。氷いうてこか。西瓜の方がええか。柳かげ冷やして奴豆腐で一杯飲んでやったらどうや」と、何とも気の利いた接待。清八からしたら、喜六が羨ましくなるほどの世話女房ぶりではないか。

参考文献:中島平八朗『上方落語十八噺』(京都新聞社)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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