三大噺——漱石・落語・豆腐

2006年は、明治の文豪・夏目漱石が俳誌「ホトトギス」に『坊っちゃん』を発表して100周年。愛媛・松山の道後温泉では様々な記念イベントが催されている。漱石に対しては、『こころ』や『明暗』など後期作品の印象が強いためか、堅苦しくてシリアスな作風と憶断して、読まず嫌いの人も少なくないだろうが、生来は下町育ちの江戸っ子。加えて、落語好きだったりもする。喧嘩っ早くて無鉄砲、いなせな江戸っ子ぶりは『坊っちゃん』で、幼いころから寄席へも通い身にしみついていたであろう江戸の言葉やリズムは『吾輩は猫である』で、存分に読み味わえる。

漱石は五代目林家正蔵の怪談噺を楽しみ、三遊亭円遊の珍芸を愛好し、晩年は特に三代目柳家小さんのファンであったという。「小さんは天才である。あんな芸術家は滅多にでるものぢやなゐ」と、小さんの自然さと巧みさを併せ持った写実的な芸風を激賞する。漱石が俳聖・正岡子規と交友関係を持つに至ったきっかけとなったのは、2人が共に寄席通を任じていたから。また、漱石が最後に聴いた落語は、知人の結婚式の余興で演じられた小さんの「うどんや」だったともいわれている。

三代目小さんは元々音曲師。良い声を持っていただけでは飽き足りず、芸を磨くため、熱心に勉強していたようだ。大阪からたくさんの落語のネタを東京へ持ち帰り、江戸落語に直している。古今亭志ん生、三遊亭円生も、印刷された三代目小さんの落語集を大切に読んでいたとか。

さて、その小さんが江戸前に仕立てた落語のひとつが「ちりとてちん」。酒のさかなの相談で集まっていた若い衆が知ったかぶりの半可通の若旦那に、腐った豆腐を珍味と偽り食べさせてしまう噺なのだが、上方落語では直截的に「酢豆腐」という。サゲも上方と江戸前では異なっており、登場人物の造形も含めて、聴き分けてみるのも一興。こう言っては何だが、夏向けの噺である。

参考文献:日本放送協会・日本放送出版協会編『NHK知るを楽しむ なんでも好奇心 2005年6-7月号』(日本放送出版協会)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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