菊池寛の納豆合戦

菊池寛(1888〜1948年)が児童向けに著した『三人兄弟』の中に、実体験に基づいたと思しき「納豆合戦」なる童話がある。菊池は冒頭、納豆売りの声について記す。朝の6〜7時頃から「なっと、なっとう」と哀れっぽい節を付けた女の納豆売りの声。その声に誘われて、小学校時代に老婆の納豆売りに仕掛けたいたずらを思い起こし、羞恥の念に駆られ、後悔するのだと告白する。

菊池はまだ11、12歳の頃で、近所の友達4、5人との通学時にいつも、納豆売りの盲目の老婆と遭遇していた。彼女は60歳を越し、冬もぼろぼろの袷を着て、足袋も履いてないような貧しげな姿。納豆のつとを20〜30個も抱え、杖を突きながら、毎朝「なっと、なっとう」と哀れな声を上げ、流し歩いている。

菊池の仲間の一人に豆腐屋の吉公という悪戯大将がいた。ある日、吉公は悪ふざけのターゲットに納豆売りの老婆を選んだ。吉公は盲目の納豆売りの前まで、つかつかと歩み寄り、「納豆をおくれ」と言う。老婆は口をもぐもぐさせながら、1銭のつと納豆か、2銭のつとかと尋ねる(してみれば、2種類のつと納豆を商っていた訳だが、これは分量の違いか……ならば、目が見えなくても勘付きそうなものだが、文中で1銭と2銭のつと納豆の差異は明らかにされていない)。吉公は1銭しか払わないのに、2銭の藁づとの方を巻き上げる。吉公は手に入れた納豆を食べるでもなく、学校に行くと、納豆を鉄砲玉にして(あるいは雪合戦の雪玉にして)、戦争ごっこを始める始末だ。大体、食物を粗末に扱うのも宜しくないが、納豆の粒をぶつけられた後の始末も気になるところ。

子供たちの老納豆売りへの悪戯は続く。吉公だけでなく、菊池(と思しき語り手)自身も老婆から1銭で2銭の藁づとをくすねる。が、悪事は露見する。連日売り上げの少ないことに不審を持って、老婆が巡査に相談したのだ。子供らは現場を押さえられる。1銭しか出してないのに2銭のつとを取ろうとした吉公の手を現行犯で、巡査がぐいっと握る。交番へ引っ張られそうになると、吉公が犯人は自分だけではないと白状。怖くなった子供たちは皆、一遍に泣き出してしまう。

すると何故かしら、老納豆売りが子供たちを擁護し、「堪忍してあげておくんなさい」と巡査に陳情するのだ。見えない目に涙をいっぱい湛えて。解放された菊池は「恩返し」のため、母親に頼み込んで、その老婆から納豆を買うようにした。

参考文献:菊地寛『三人兄弟』(赤い鳥社)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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