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またの名を「から糸」

江戸時代後期になる『嬉遊笑覧』は、喜多村筠庭(1783〜1856年)の著した随筆。筠庭は国学者・喜多村信節の筆名のひとつで、当時の風俗を知るには貴重な史料だ。書中、納豆の種類もしくは呼び名を挙げると、浜納豆、さぜん(座禅)納豆――おそらくは座禅大豆(2011年11月「座禅大豆」参照)と同じ効用から食された寺納豆の類か――、たたき納豆、寺納豆に続けて、「から糸」の名が記される。そこで引用されるのが、あの安楽庵策伝『醒睡笑』。から糸が現れるのは「巻之八」の「かすり」において。かすりとは、元の語の音をかすめて、別語に仕立てる技巧。要は、駄洒落である。

座頭の琵琶負うて来るを見つけ、おどけ者が「なつとの坊はいづくより、何処へお通りぞ」。「わらの中にねてから、糸ひきに行く」と。

琵琶を背負った座頭の坊(「座頭市」などで連想してもらえるように、琵琶や按摩などを生業にした者)がやって来るのを目にしたお調子者がしゃれのめす。「座頭(ざっと)」と「納豆」を掛けた訳。ところが受け答える座頭の坊が上手だ。わらの中に寝るとは、わらの中に寝る農民のように見すぼらしい様を自ら笑い飛ばすとともに、わらづとで作られる納豆に引っ掛けた。納豆を発酵させることを「寝かす」というのも念頭にある。また糸を引くから糸引き納豆というが、座頭の坊もまた琵琶の弦(糸)を引く。何とも当意即妙の返答ぶりで、この座頭の贔屓客は多かったに違いない。

上掲のエピソードの後、歌「見た所 うまさうなりやこの茶の子 名は唐糸というてくれなゐ」と解説を付けた。「唐(から)糸」が納豆の別名として使用されている。歌意は「見たところ、このお茶請けは美味しそう。名前は『から糸』と言ってくれないか」。後の句で「辛いと言って(顔も)紅色になる」と、策伝がしゃれのめしているのも面白いが、納豆が辛いというのは薬味に唐辛子(2011年9月「唐辛子と納豆」参照)などを使い過ぎたのではないか?などと想像を誘う。

※「筠」は、「竹」冠の下に「均」

参考文献:安楽庵策伝『醒睡笑(下)』(岩波文庫)
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たまに「考える人」、歴史探偵。
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