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沢村真と納豆

納豆菌が所嫌わず生息している日本のような温帯モンスーン地帯では、蒸した大豆と(納豆菌が自然に付着している)稲わらさえあれば、それこそ自然発生的に納豆が現れる。近代以前のわが国では、コメの収穫を終えた冬の間の保存食として納豆を各農家が拵えていた訳で、誰が発明したという大仰な食品でもなく、いわゆる「手前味噌」のような形態で「手前納豆」のような物が地域に流通していたのだろうと思われる。だが食の近代化は、納豆という領域でも着実に進行した。

「近代化」および「近代」という問題は現在なお議論がかまびすしい。『広辞苑』を引いても「産業化・資本主義化・合理化・民主化など、捉える側面により多様な観点が存在する」と、はっきりしないが、本稿では産業化、すなわち「生活してゆくための仕事。なりわい。生業」と把握し、納豆の近代化とは「納豆を製造することのみによって生活が成り立つこと」と解する。納豆製造業が近代産業として成立するに当たって、いくつかのエポック・メイキングな出来事があるのだが、まず嚆矢として挙げるべきは、明治〜昭和時代前期の農芸化学者、沢村真(1865〜1931)の存在である。

沢村真は、栄養学、食品化学の研究で知られる東京帝大教授であり、後に文部省督学官も兼ねた。沢村は肥後(熊本県)出身……熊本といえば、東高西低の納豆消費量のトレンドにあって、九州で独り納豆人気の高い土地柄だったことが想起されるのだが。沢村の代表的な著書『営養学』の「豆類と雑穀」の章から、引用しよう。

絲引納豆を製するには、大豆を蒸し又は煮て、まだ熱い中に藁苞に入れ、之を室に入れて一夜暖めおけば翌朝は納豆となる。但し大豆の容量が多ければ、納豆となるに数日を要する。納豆は納豆菌(Bacillus natto, Sawamura)と云ふ細菌が、繁殖する為に出来るもので、納豆の衣は此細菌の塊と云ふてもよい。

「Bacillus」とは、細菌をその形状でいくつかに分類した際、棒状あるいは円筒状の桿菌を指す。着目すべきは学名に含まれた「Sawamura」。明治38年(1905)、納豆菌の純粋培養に成功したその人こそ、沢村真博士だったのである。

参考文献:沢村真『営養学』(成美堂書店)
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