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納豆の学名

枯草菌(Bacillus subtilis)の一種である、納豆菌の正式な学名は「Bacillus subtilis var. natto」(枯草菌の一変種であるところの納豆菌みたいなニュアンス)――になるのだが、間を省略した形(正確には1948年、枯草菌に含められるまで)の「Bacillus natto」との表記もまま見られる。

が、時折「Bacillus natto Sawamura」とした誤記(?)を現在なお、たまに見かけることがある。サワムラとは、明治38年(1905)、納豆菌の純粋培養に成功した沢村真博士のこと(2012年3月「沢村真と納豆」参照)。その経緯について、沢村博士の著述を追って概観してみよう。

大豆ニ繁殖スル細菌ハ數多アレドモ普通ニ納豆ニ存シ之ニ粘性ヲ生ゼシムルモノハばちるす、なつと(Bacillus natto Sawamura)トス」――沢村真『新細菌学』(興文社、1912年)から。

粘氣と好き香とを生ずる細菌は其の數多からざるなり。著者は東京の納豆につきて一種の細菌を分離し之をバチルス、ナットー(Bacillus natto)と名づけ納豆菌とせり」――沢村真『農業細菌学』(明文堂、1912年)から。

其後著者は此桿状菌に『バチルス、ナット』の名を與へ、常に之を蒸大豆に植へて納豆を作り、實業家にも著者の方法を用うるもの生ずるに至れり」――沢村真『新編農産製造論』(成美堂書店、1913年)から。

故に之を納豆の生産者と認め、著者は之にバチルス・ナットー Bacillus natto の名を命ぜり」――沢村真『食物辞典』(隆文館、1914年)から。

以上を散見するに、ごく初期の例外を除いて、沢村博士の付けた学名もまた「Bacillus natto」が大半を占める。さらに細かい個所を指摘すると、『新細菌学』での「Bacillus natto Sawamura」の「Bacillus natto」と「Sawamura」は改行位置にあり、沢村真『営養学』(成美堂書店、1929年)で示されたように「Bacillus natto,Sawamura」のコンマが落ちたと考えられなくもない。しかも日本語の読みから「サワムラ」を外してある。時に学名の後ろに命名者や年号などが付加されることがあり、それにはコンマを伴うのだが、「Bacillus natto Sawamura」は、命名者の沢村博士の名前を(コンマ抜きで)学名自体と混同したものかとみられる。
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