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菅原木像

人形浄瑠璃文楽・歌舞伎の三大名作の一つ、
竹田出雲並木川柳三好松洛竹田小出雲
『菅原伝授手習鑑』を通読しています。見取り狂言の
床本で、有名どころの場面は読んでいるのですけれど、
細部も含め、全体を押さえておきたいものですから。
まさしく、“怒り天神”の姿を示現する四段目「天拝山
飛梅の段
」や、何やらB級ホラーめく五段目など、
個人的にも愉しめます……が、やはり、仏像好きとして
二段目の切「道明寺の段」は、俄然、興味倍増。
土師(はじ)氏の氏寺であった「道明寺」の国宝にして、
菅原道真が彫ったといわれる「十一面観音菩薩立像」を
思い出さざるを得ません。もっとも、「菅原伝授手習鑑」で
菅原が刻んだ像は、仏像でなく、自分自身という設定。
       ☆
兵衛親子が工(たくみ)も顕はれ。何もかも納りし。此木像の不思議な働き。かゝる例(ためし)も有る事かや。いやとよ 最前もいふごとく。匹夫(ひっぷ)々々が工も顕はれ。我急難を遁れても。暫時の睡眠前後を知らず。木に彫(きざ)み 筆に畫(ゑが)く。例は本朝名高き絵師。巨勢(こせ)の金岡が書いたる馬は。夜な夜な出て萩の戸の萩を喰ひ。唐土(もろこし)にも名畫の誉(ほまれ)。呉道子(ごだうし)が墨絵の雲竜 雨を降(ふら)せし例も有り。又(また) 神の尊像木仏などの。人の命にかはらせ給ふ例はかぞへ盡されず。菅丞相が三度迄 作り直せし物なれば。木にも魂 備(そな)はつて我を助けしものやらん。讒者の。為に罪せられ、身は荒磯の嶋守りと、朽果(くちはつ)る後の世迄 筐(かたみ)と思し召されよと。仰は外に荒木の天神河内の土師村 道明寺に。残る威徳ぞ有がたき。
       ☆
天皇への殉死の代わりに埴輪を立てることを案出した土師氏の
血筋から、菅原道真が出ているのであれば、自らの身代わりに
(木)像を制作することも、突飛なことでなく、極めて自然なのか。
五段目の最終部では、“天満宮(天神社)”の縁起を説いて
締め括られます。床本の詞章では、シンプルに下記のとおり。
       ☆
栄へ栄ふる御社は、千年万年朽ちせぬ宮殿。栄へましますこの御神、縁起をあらあら書き残す、筆の冥加や御伝授の、伝はる和国に著き、威徳を崇め奉る
       ☆
「北野の千本松」から続いているので、「北野天満宮」の縁起
のみに制限されてしまうのですが、丸本では若干異なります。
人形浄瑠璃の興行地は大坂がメイン、当然、「大阪天満宮」に
ついても触れてもらわねば、観客が納得しなかったことでしょう。
太夫の床本では、「錦の帳」~「神徳奇瑞」がカットされた模様。
       ☆
栄え栄ゆる御社(みやしろ)は千年萬年朽ちせぬ。宮殿(くうでん)。錦の帳(とばり) 玻璃(はり)の柱。瑪瑙の梁(うつばり) 瑠璃の垂木(たるき)。廻廊拝殿。有々(ありあり)と拝まれさせ給ひける。京に北野 難波に天満 神徳奇瑞 並(ならび)なく。栄えまします此御神 縁起をあらあら書き残す筆の冥加や御傳授の。傳はる和國に灼然(いちじる)き威徳を崇(あが)め奉る。

参考文献:竹田出雲『菅原伝授手習鑑』(岩波文庫)
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テーマ : 伝統芸能
ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 文楽仏像史跡

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たまに「考える人」、歴史探偵。
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