北野村の白太夫

「南浜墓地」（大阪市北区豊崎1丁目5）の「六地蔵」の
舟形光背の銘記から、貞享4年（1687）、かつての大坂では
「北野村」という地名が定着していたことが確認できます。
「まち歩きガイドボランティア養成講座」の第1回講義
「梅田の歴史」（5月18日）の受け売りになるのですが、
現在の梅田周辺の繁華街を指す「キタ」の語源と伝えられて
いるのが、「北野村」。正暦4年(993)、冤罪の晴れた菅原道真
の御神霊に対して、朝廷から正一位が追贈されたことを機に、
「神野太神宮」（＝現在の「綱敷天神社」）と「梅塚天満宮」が
合祀され、社殿も改めて建立されました。「神野太神宮」が
御本社（現在地：大阪市北区神山町9番11号）、「梅塚天満宮」が
「御旅社」（大阪市北区茶屋町12番5号）とされています。
御本社は後に、全国の天満宮・天神社の総本社である京都の
「北野天満宮」に倣い、「北野天神」とも称されるようになりまして、
その“北野”から同地の村名「北野村」が採られたという説。
ただし、「北野」は「喜多埜」と書かれている文献も多く、異説では
「北野天神」と呼ばれる以前から、既に「喜多埜」と呼ばれていた
ともいわれている訳です。なお、『菅原伝授手習鑑』に登場する
松王丸・梅王丸・桜丸の父親、白太夫のモデルとされたのが
「伊勢神宮」外宮の神官・禰宜である渡會春彦（若い頃から
頭髪が真っ白だったそうです）。「綱敷天神社」の世襲社家である
白江家の始祖に当たるのが、その渡會春彦と知り、白太夫の
末裔が存続し、近場の天神社の禰宜を務めていることにびっくり。
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また、キタの中でも「梅田」という地名については、田畑池沼を
埋め立てたことから、「埋田」と名付けられたといった説明が多く、
寛正2年（1461）の「中嶋崇禅寺領目録」に「埋田之内角田」と
記されています。ただ、字面の無粋さを嫌ってか、或いは、「北野
（天満宮）」＝菅丞相からの連想が働いたのか、「埋」の字が「梅」に
替えられることになりました。元禄4年（1691）の「大坂大絵図」で
「梅田橋」の文字が、それよりも早い延宝7年（1679）、水雲子の
『難波雀』150段（三昧）における「梅田」が初見となるのでしょうか。

参考記事：綱敷天神社 ― 由緒
参考文献：国立国会図書館デジタルコレクション『難波雀』