戦中納豆は「豆腐並み」を陳情する

戦時色深まる昭和15年(1940)10月、「大豆及び大豆油等統制規制」により、大豆の統制・配給が始まった。先に「輸出入品等臨時措置法」(昭和12年9月10日)の公布に伴う「雑穀類配給統制規制」で、小豆、菜豆、えん豆、緑豆、蚕豆は既に統制済みだった。各納豆生産県ごとに納豆組合が発足していたとはいえ、全国組織の結成も要請されるところ。同年10月10日に「全国納豆工業組合聯合会」が設立されている。聯合会は原料大豆の配給斡旋を行っていたが、政府が昭和15年に内地産大豆の集荷配給統制を実施したことから、原料大豆の確保のため、「全国納豆工業組合協会」(全納協)の設立に至る。

原料大豆を獲得するために、当時の全納協(三浦二郎会長)は農林省に対して「大豆配給割当について」の陳情を行っている。ちょうど太平洋戦争が勃発して2日後だったという。納豆業界の命運の懸かった陳情の要旨には、「納豆ヲ豆腐ト同等ニ認ムル理」と題打たれている。原料大豆を統制されての苦境に立たされていたのは、豆腐業界も同様であったが、納豆については豆腐よりも深刻な状況に置かれていたため、「せめて豆腐と同等の扱いを!」と求めていたらしい。

その後、納豆がいかに優れた大豆発酵食品であるかを縷々と述べている。曰く「豆腐ノ蛋白質十匁ノ価格十四銭ニシテ納豆ハ九銭八厘ナリ」「大豆ノ全成分ヲ保有シ而カルモソレカ消化ニ易キ状態ニアリ」「納豆ハ保存ニ適シ携帯ニ便ナリ」「納豆ハ食用簡便ニシテ塩ニテ調味食用スルヲ得」「故ニ場合ニヨリテハ頗ル便宜ナル食品ナリ」と誇る。

1匁を3.75グラムと見なし、10匁は37.5グラム。当時の豆腐や納豆と現今のものとで、たんぱく質含有量が同じものと仮定すれば、「五訂日本食品標準成分表」から木綿豆腐(100グラム当たり6.6グラム)、糸引き納豆(同16.5グラム)の数値を代入して、約568グラムの豆腐が14銭、約227グラムの納豆が9銭8厘という概算になる……ちなみに昭和19年(1944)の豆腐は10銭(1丁100匁=375グラム程度)というから、当たらずとも遠からずか?

総務省統計局の「小売価格調査」などにより、100グラム当たり(あるいは45グラム×3個など)の価格での比較は慣れているが、たんぱく質含有量による価格の比較という着眼点はなかなか斬新に思われる。量目を現在の小売価格調査にそろえてみると、当時の豆腐は100グラム当たり約2銭5厘、納豆は135グラム(45グラム×3個)当たり約5銭8厘。他にも納豆の美点を枚挙した上で、全納協の農林省への陳情は「納豆ハ豆腐ニ優ルトモ劣ラサル食物ナルコトヲ信スルモノナリ」と締めくくられている。
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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