fc2ブログ

空白(ネタばれ)

9月24日(金)、「大阪ステーションシティシネマ」に出掛け、
15時30分から、吉田恵輔・監督の『空白』を鑑賞しました。
脚本も同じく吉田恵輔。スーパー(での万引現場)から逃げ出した
女子中学生が交通事故死。その父親の漁師とスーパー店長との
確執らしきものを、町全体の人間模様として描いたドラマでしょうか。
父親役の古田新太が主役でしょう。何を考えているのかわからない
とバッシングを受ける店長役に、松坂桃李。他も、別れた妻の役に
田畑智子、若手漁師に藤原季節、中学校教師に趣里、スーパーの
パートでボランティア狂の寺島しのぶ、女子中学生の伊東蒼を含め、
演技達者が揃い、濃密な人間劇を醸し出していました。どうしても
泣いてしまうのが、女子を轢いてしまい、両親の呵責に耐え切れず、
自殺してしまった娘の母親(片岡礼子)が、葬儀に現れ、それでも
娘の謝罪を受け入れず、「俺は謝らないぞ」と傲然と言い放つ添田充
(古田)に対し、丁重に(不可抗力であれど)娘の仕出かしたことを詫び、
娘の至らなさを挙げつつも、哀惜の念を隠せない言葉を連ねるシーン。
子を失くした親同士の対峙で、そこでは、憎しみと哀しみだけが相手を
理解する鍵となっています……理解できても、赦し合うことは出来かね。
さらには、前妻・松本翔子(田畑)が新しい命を授かっていることや、
亡き娘に因んだ命名に対して、手荒い反応を取ってしまうも、その後、
羨ましかった、済まなかった、と改心の兆しを垣間見せてくる添田の
姿ですね。人間の在り方を含め、理不尽なことが世の中には起こる
のだけれど、まずは自分の非を認め、それを赦すことが出来るかな。
親子であっても、他人は他人。何を感じ、何を思っているのか、そうそう、
わかったものではありませんし。モンスター父と化しつつあった添田充に
焦点を当てれば、生きていた時はわかり合えなかったかもしれない
けれど、後から、同じ風景(イルカのような雲)を見ていたことに
気付く――という一抹の救いが得られるかのように思います。今は
赦せない……でも、時間を掛ければ、添田は他人を赦せるようになる。
そのような未来への希望が呈示されて、映画自体は幕を閉じます。
       ☆
映画の主役としての添田充は、人を赦し、最終的には自分自身を
赦すことが出来るかもしれません。映画のストーリー上は。添田は
もう十分に疲れているからです。監督が提示するのは、次に映画の
観客に対する質問です。では、貴方は他人を赦せますか? という
問いになります。スーパー「アオヤギ」店長の青柳直人(松坂)には
ロリコン疑惑、痴漢事件らしき前歴がありました。パートの草加部麻子
(寺島)に迫られても、必死の抵抗を見せるのは、成熟した女性に
対する恐怖感からです。青柳は添田に最初土下座をして詫びますが、
添田も同じく土下座で受けて立ちます。土下座自体の無効性を明かした
訳でなく、添田はおそらく無意識に、青柳が本心から謝罪しているの
ではないと看取していたのでしょう。スーパーを辞め、警備員をしていた
青柳は、添田の亡き娘の遺品の鞄に付いていたマスコットを見て、
突如、(2度目の)土下座をします。映画では、スーパーで添田の娘・
花音が万引現場を見つかり、別室に連れ込まれてから、スーパーを
飛び出して行くシーンまでの間の描写が明示されていません。さて、
何が行われていたのでしょか。そういう青柳を手放しで赦せますか? 
ぼくが思うに、青柳の2度目の土下座はドストエフスキー『罪と罰』
のラスコーリニコフの大地へのキスと等価ですし、青柳の自殺(未遂)は
『悪霊』のスタヴローギンと同根の罪によるものでしょう。添田は知る
ことがなかったのですが、察してしまった観客(の一部)は、それでも、
青柳のような人たちを赦すことが出来るのでしょうか? 映画という
ジャンルでは声高に言い立てられませんから、改めて、自問します。
(「映画.com」にも、同様の趣旨の映画レビューを投稿しました)
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 邦画
ジャンル : 映画

tag : 映画小説

コメントの投稿

Secret

カレンダー
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
Access Counter
総閲覧者数:
Online Counter
現在の閲覧者数:
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリー
プロフィール

ぽか

Author:ぽか
⇒ 旧プロフィール

歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
フードビジネス・コンサルタント
(自称)。
好きな言葉は「ごちそうさま」。

リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
Amazon
QRコード
QR
RSSリンクの表示
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メルマガ登録はこちらから
購読希望者はメール・アドレスを書き入れて「送信」してね!
SOUKEN