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こんにゃく八面六臂

かつて平凡社の『別冊太陽』、『太陽』の編集長だった嵐山光三郎氏(1942年〜)の著作に触れていると、何でそんなところまで……という微に入り、細を穿つ知識にぶつかり、呆然とさせられることがしばしば。軽妙洒脱でテキトーな文体「昭和軽薄体」に幻惑させられ、へらへら笑って読み流していたつもりの『文人悪食』や『文人暴食』が、結果として優れた文学批評としても成り立っていることに唸らされたり、ね。

倦まずたゆまず「食」のことを考える人にとっても、のほほんとグルメ生活を楽しむ人にとっても、嵐山氏の一筋縄ではいかない料理本『素人庖丁記』は、今なお想像力を刺激してやまない名著なのです。その第4回講談社エッセイ賞受賞作に、「イトコンニャクのざるそば」なる一章が。
こんにゃく横丁(201109)
のっけから「イトコンニャクをざるそばにして食べている。イトコンニャクを湯がいてから水に晒し、十センチほどに切って竹ザルに乗せ、もみ海苔をふりかけて、ざるそばつけ汁につけて食べる」とレシピを記した上で、「じつにまずい」と片付けられて爆笑。

だが「まずいが、まずさのなかに感動がある」と続けられることで、しんみりとさせられる。そうして「まずいかもしれないが、工夫によって新展開がある」といい、そこには工夫の楽しさがあるから、未知の味としてのまずさを称揚している。

嵐山氏が糸こんにゃくばかり食べ始めたのは、ダイエットのため。ただ食べるだけでは能がない。未知なる味へ向けてのチャレンジを楽しまなくては――その過程で、糸こんにゃくのざる蕎麦を考案。酢醤油と辛子で食すれば、ところてんの代用になる。

見立て料理の(狸汁と)スッポン煮、こんにゃくの薩摩揚げ、こんにゃくの焼きそば、1時間乾してこんにゃくのステーキ、こんにゃく七味、玉こんにゃくを竹串で刺したこんにゃくの焼き鳥、こんにゃくのおでん、こんにゃくの味噌漬け(それを揚げてのミソコンカツ)……拾い上げるだけでも、これだけのレシピを6日間作り続け、食べ続けて、減量に成功。半年も続ければ栄養失調で死ぬのではないかと、真顔の冗談。とまれ、この旺盛なこんにゃくへの探究心の果てに垣間見れたのは、こんにゃくは「何ものかの代用とされることが多い」という深遠なる哲理だった。

参考文献:嵐山光三郎『素人庖丁記』(ランダムハウス講談社)
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歌わない詩人、喰えない物書き。
たまに「考える人」、歴史探偵。
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