一葉と浄瑠璃
何故かしら、田邉朔郎(1861~1944)からの関連で、
樋口一葉(1872~1896)を読み返そうと思いまして、
文庫本の頁を捲っていると、人形浄瑠璃文楽への
言及が多々目に付きました。一葉が特に浄瑠璃を
愛好していたというよりは、浄瑠璃(義太夫)が世間
一般に人気を有していたと解するべきなのでしょう。
「にごりえ」で、結城(ゆふき)朝之助(とものすけ)が
菊の井のお力に掛ける言葉は、以下の如くです。
☆
これはどうもならぬ そのやうに茶利ばかり言はで
少し真実(しん)の処(ところ)を聞かしてくれ
☆
「茶利」は本来、浄瑠璃で滑稽な文句のある部分、
“チャリ場”のことですね。冗談の意で使われています。
「われから」(明治29年4月脱稿)では、11月28日の
旦那(=金村恭助)の誕生日の余興が描かれています。
☆
例の沢木さまが落人(おちうど)の梅川を遊(あそば)して、
お前の父(とと)さん 孫いもんさむ とお国元を
顕(あら)はし給ふも 皆この折の隠し芸なり
☆
恭助の同僚・沢木が、近松門左衛門 『冥途の飛脚』
新口村の段において、「梅川・忠兵衛」の忠兵衛の実父・
孫右衛門と邂逅する梅川を余興で演じるも、方言が抜けず、
「孫いもんさむ」と言い違えてしまう次第。また、恭助が
奥方(=町)が塞いでいるのを見て、気散じを勧める際は。
☆
ちと寄席ききにでも行つたらどうか、
播磨が近い処へかかつている、今夜はどうであらう
行かんかな と機嫌を取り給ふに
☆
「寄席」と言っても、落語と限らず、この場合は義太夫語り。
時代的に、4代目・竹本播磨太夫(1839~1903/04)のよう。
「わかれ道」では、一寸法師の吉三と、年長のお京との
関係が描かれますが、菅専助 『桂川連理柵』を引用。
☆
お京さん お京さんとて入浸(いりびた)るを 職人ども
翻弄(からかひ)ては帯屋の大将のあちらこちら、
桂川の幕が出る時はお半の脊中(せな)に長右衛門
と唱(うた)はせて あの帯の上へちよこなんと乗つて
出るか、此奴(こいつ)は好(よ)いお茶番だと笑はれるに
☆
所謂「お半長」ですが、元の主人公・帯屋長右衛門が
四十代の分別盛りであったのとはあべこべに、小僧の
吉三は16歳。長右衛門は14歳のお半を背負って、桂川で
心中しましたが、吉三はお京の背中に乗って行くのか
と、長屋の職人たちに嘲弄されてしまうという一節でした。
参考文献:樋口一葉『にごりえ・たけくらべ』(新潮文庫)
樋口一葉(1872~1896)を読み返そうと思いまして、
文庫本の頁を捲っていると、人形浄瑠璃文楽への
言及が多々目に付きました。一葉が特に浄瑠璃を
愛好していたというよりは、浄瑠璃(義太夫)が世間
一般に人気を有していたと解するべきなのでしょう。
「にごりえ」で、結城(ゆふき)朝之助(とものすけ)が
菊の井のお力に掛ける言葉は、以下の如くです。
☆
これはどうもならぬ そのやうに茶利ばかり言はで
少し真実(しん)の処(ところ)を聞かしてくれ
☆
「茶利」は本来、浄瑠璃で滑稽な文句のある部分、
“チャリ場”のことですね。冗談の意で使われています。
「われから」(明治29年4月脱稿)では、11月28日の
旦那(=金村恭助)の誕生日の余興が描かれています。
☆
例の沢木さまが落人(おちうど)の梅川を遊(あそば)して、
お前の父(とと)さん 孫いもんさむ とお国元を
顕(あら)はし給ふも 皆この折の隠し芸なり
☆
恭助の同僚・沢木が、近松門左衛門 『冥途の飛脚』
新口村の段において、「梅川・忠兵衛」の忠兵衛の実父・
孫右衛門と邂逅する梅川を余興で演じるも、方言が抜けず、
「孫いもんさむ」と言い違えてしまう次第。また、恭助が
奥方(=町)が塞いでいるのを見て、気散じを勧める際は。
☆
ちと寄席ききにでも行つたらどうか、
播磨が近い処へかかつている、今夜はどうであらう
行かんかな と機嫌を取り給ふに
☆
「寄席」と言っても、落語と限らず、この場合は義太夫語り。
時代的に、4代目・竹本播磨太夫(1839~1903/04)のよう。
「わかれ道」では、一寸法師の吉三と、年長のお京との
関係が描かれますが、菅専助 『桂川連理柵』を引用。
☆
お京さん お京さんとて入浸(いりびた)るを 職人ども
翻弄(からかひ)ては帯屋の大将のあちらこちら、
桂川の幕が出る時はお半の脊中(せな)に長右衛門
と唱(うた)はせて あの帯の上へちよこなんと乗つて
出るか、此奴(こいつ)は好(よ)いお茶番だと笑はれるに
☆
所謂「お半長」ですが、元の主人公・帯屋長右衛門が
四十代の分別盛りであったのとはあべこべに、小僧の
吉三は16歳。長右衛門は14歳のお半を背負って、桂川で
心中しましたが、吉三はお京の背中に乗って行くのか
と、長屋の職人たちに嘲弄されてしまうという一節でした。
参考文献:樋口一葉『にごりえ・たけくらべ』(新潮文庫)
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