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権平こんにゃく

山中共古(1850〜1928)の考証本『砂払』を題材に、以前「こんにゃく本」のことについて触れた(2013年1月「『蒟蒻本』とは何か?」参照)。共古は「こんにゃく本」から当時の時代風俗を抜き書きしてまとめた自著に、やはり、こんにゃくの異称「砂払い」とのタイトルを冠している。「払砂録」など3篇6冊から成る『砂払』には、「権蒟蒻(左)」「権蒟蒻(右)」も含まれる。またもや、耳慣れぬ言葉「権蒟蒻」という言葉が出てきているが、これにも共古は6冊中の一冊「続砂払(前)」で丁寧な解説を加えてくれた。

元禄年間の流行詞に、『権平こんにやく辛労が利』といふありし。こは権平なる男、蒟蒻売りとなりて、人の売るよりも安く、形ち大きくしたらむには、必定商ひ多からんと心附き、先づこんにやく玉を仕入れんとて、遠き地へ買込に参り、これにて製し、大きくして、他人が三文にて売るものを二文にてうりしかば、人の目を引き、一、二丁も歩まぬ間、皆売り尽せり。かくして数日、仕入し蒟蒻玉はことごと※1くうり出したれば、又も仕入て売りしに、是亦幾日も立ぬ間にうり尽せり。偖売上勘定を為せしに、遠国へ旅費を掛け、形を大きくし、価を安くせし為に、差引何んの利益も無く、骨折損のくたびれもふけとなりしかば、人々彼を冷笑して、権平が蒟蒻、辛労が利と嘲りしより、はやり言葉とはなりぬと

※1:ことごとの「ごと」は、ユニコード「U+3032」ぐの字点。〲

元禄年間に、権平というこんにゃく売りが、目先の商売を考えた。同業他社より量目の大きいこんにゃくをさらに安くで売りさばけば、売り上げも伸びるだろうと企み、まんまと狙いどおりに商売が流行った……ところまでは良かったが、純利益を精算してみたらば、(安い)原材料も遠方から仕入れたとあって、黒字にも達せず、「権平のこんにゃく」は骨折り損のくたびれ儲けだと、皆から笑われたという話。「権蒟蒻」は「権平こんにゃく」の略である。

その権平こんにゃくを引き合いに出すのは、共古自身がこんにゃく本の面白さについつい惹かれて「払砂録」を編み、その後も多くのこんにゃく本に親しみ、「続砂払」などを続々と編集。だが、それもまた何の利益にもならず、時間と筆紙の浪費ではないかと自嘲し、自分もまた権平と変わらぬではないか?と、タイトルでおどけて見せた訳だ。

参考文献:山中共古『砂払(上)』(岩波文庫)
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