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『あかね空』の豆腐

第126回直木賞を受賞した山本一力の時代小説『あかね空』が映画化され、公開された。江戸時代の下町の長屋で豆腐屋を営む職人一家の人情話であり、主人公の永吉が京都・東山で生まれ、南禅寺近くの「平野屋」で修業していたという設定。永吉が江戸の深川に移ることで、京と江戸との味覚や食文化の違いが必然的にドラマを生み出す。

平野屋の豆腐しか知らない永吉は、棒手振の担ぎ売りをする考えもなく、「平野屋の豆腐は担ぎ売りするもんやおまへん。店売りで行きます」ときっぱり言い放つ。裏を返せば、永吉の作る豆腐は担ぎ売りできるような代物ではなかったということだ。永吉が江戸に着いて初めて目にした豆腐は、門前町にある相州屋の豆腐だった。まず「居座っているとしか言いようがないほどに、豆腐が大きかった」ことに永吉は衝撃を受ける。

手のひらの上で包丁を入れて半分に分けた。ひとつを鍋に戻し、残りをさらに半分に切った。四半分になった豆腐ふたつを、買ったばかりの皿に載せた。堺屋の手代から江戸の豆腐は大きいと聞かされていた。が、まさか平野屋の四丁分もあるとは思ってもみなかった。

もうひとつ、豆腐の固さにも驚いた。平野屋では豆腐を水桶から取り出すとき、手を下にあてて優しく掬い上げた。うっかり掴むと、ぐずぐずと形が崩れたものだが、江戸の豆腐は違った。四半分の豆腐ふたつを大きな賽の目に切った。下地もつけず、そのまま手で摘んで口に入れると、舌で豆腐を潰した。同じことを繰り返して、四半分ふたつの豆腐を食べ終えた。

平野屋の豆腐とはまるで別物だった。豆腐が固い分だけ、ざらりとした舌触りである。しかも大豆がわるいのか、旨味がなく、豆の青臭さがいつまでも口に残った。


京豆腐と江戸前の豆腐との違いとして、主に3点が挙げられている。大きさ固(堅)さ舌触りである。江戸の豆腐は京都の4倍のサイズで、担ぎ売りに耐え得るように堅く、ざらりとした舌触りだった。大豆に不満を覚えた永吉だったから、江戸の豆腐屋にならって水戸産の玉光を使おうとはせず、丹波産玉誉の使用を決める。これは当時の大豆の最上等品で、1升で銀2匁にもなる。日本橋の雑穀問屋「広弐屋」の手代や番頭が、永吉の商いの先行きを案じたほどだった。

参考文献:山本一力『あかね空』(文春文庫)
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