『あかね空』の豆腐、再び

第126回直木賞を受賞した山本一力の時代小説『あかね空』は、宝暦12(1762)年8月、主人公・永吉が江戸の深川蛤町へ越して来る場面から書き起こされる。京都に生まれ、京都の豆腐屋「平野屋」で修業した永吉を主人公に据えたことで、京と江戸との味覚・食文化の違いがくっきりと浮かび上がる。作品に表れた京豆腐と江戸前の豆腐との違いについては前回触れたが、当時の豆腐の価格はどうだったのか?

永吉は不慣れな土地に新しく店を出すことから、同業者の市場マーケティングに勤しむ。朝から小鍋を手にして、深川界隈の豆腐屋を10軒ばかり見て歩く。「もっとも高かったのは三好町の表通りに店を構えた平田屋で、四半丁が十二文。安かったのは、仙台堀近くの路地で見つけた一間間口の豆腐屋で、四半丁が七文で買えた

作品の時代設定に近い明和年間(1674〜1671年)の相場を見ると、金1両=銀60匁=銭5貫文となる。江戸時代の通貨の交換レートは、幕府の公定レートがあったとはいえ、実際には相場が動き、交換レートも変動した。銭1貫文=1,000文で、本来、江戸時代中期まで1両=4貫文だったが、その後、5貫文、6貫文、10貫文と銭の価値は下落し、『あかね空』に描かれた頃だと、1両=5貫文。現代の貨幣に換算すると、大まかに1両は8万円から10万円に相当する。仮に1両を約10万円(1文=20円)との想定の下、推計してみる。

平田屋の豆腐1丁は、12(文)×4×20=960円。深町界隈で最高値とはいえ、かなり高額である。最安値の豆腐屋ですら、7(文)×4×20=560円となる。さて、永吉の開業する「京や」の豆腐は「十文で行きます」と言うので、1丁200円。これは現代でも通用する小売価格のように思われる。

そこで思い起こされるのが、永吉の発見した京と江戸との豆腐の大きさの違いだ。「平野屋のは江戸のよりずっと小さいんですわ。言うてみれば、こっちの四半丁が、わての一丁ですよって」との述懐もある。江戸前豆腐の四半丁の価格を1丁当たりの価格と見なせば、140〜240円の幅に収まる。(フィクションながらも)江戸前の豆腐は、現代の豆腐の標準的なサイズよりかなり大きかったのではないかと想像される。

参考文献:山本一力『あかね空』(文春文庫)中江克己『お江戸の意外な「モノ」の値段』(PHP文庫)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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