雪割り納豆

むずかしく考えてはいけない。実に簡単な味噌汁である。味噌をとく前に納豆を入れる。葱のぶつ切りを入れる。それで味噌をとき、さっと煮たてれば、すなわち納豆汁になる。味噌の香のほかに納豆の香がする。具は豆腐がいちばんよく似合う。場所によっては身欠鰊(にしん)を数片おとしてもよい。もし、いますこしおいしい納豆汁を、と思われる奥方は、納豆をすり鉢ですっていれるとよい。

生涯“美”を希求した小説家・立原正秋は、流行や時代の風潮に流されることなく、端然とした世界のたたずまいを数多くの作品に書き連ねた人だった。彼の美意識は、陶器や“食”の世界でも小説と同じように貫かれている。ただ「うまいものを食べたい一心」から、自ら包丁を握った男子でもあり、単なる高級食材や名前ばかりの料亭には目もくれなかった。何しろ、貧乏公卿が質素な生活の中、おいしく工夫を凝らしたのが京料理だと喝破するような人だ。

いったい京都で何がおいしいか。やれ湯豆腐だ、精進料理だという。(中略)どだい湯豆腐などというものは外でゼニをはらって食べる食物ではない」と散々にくさし、京都の食い物でおいしいものがあるとすれば、「貧乏の工夫」が美味にした鯖ずしだと言う。

湘南住まいの立原は「雪割り納豆」についても触れ、「雪割り納豆というのを食べてみたが、あれはやはり東北の寒いところで食べるのがいちばんよい。保存食だから、湘南地方のようなあかるい土地では、どうも味がしっくりしない」と細かな批評を加えている。その地方、その土地で収穫された山海の恵みをその場で、奇をてらわず、しかし手間をいとわずにこしらえさえすれば、うまいものにありつけるのかもしれない。だが、それがいちばん難しいことなのだと言うかのような口ぶりではある。

雪割り納豆は山形県の特産品、米沢を中心に作られている。大豆の表皮を取り除いて2つ に割り、こうじ菌と塩などを加えて熟成させたもので、豆2斗、こうじ5斗、塩1斗(合計5斗) の割合で作ることから「五斗納豆」とも呼ばれており、すりつぶしてお湯を注げば即席の納豆汁にもなるとか。

参考文献:立原正秋『美食の道』(角川春樹事務所)
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通りすがりの夢想家。元(にして最後の)「トーヨー新報」編集人。現在は、一介の編集素浪人?



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「トーヨー新報」は、昭和33年(1958)創刊。大豆加工品(豆腐・油揚げ、納豆、豆乳、湯葉、凍り豆腐、もやし等)、こんにゃく、総菜業界をメイン購読者層に、月3回の旬刊紙「トーヨー新報」や業界関連データブック『豆腐年鑑』を発行。平成25年(2013)12月21日号、第1851号をもって終刊に至る。

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