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木の芽田楽

江戸時代にベストセラーとなった豆腐料理本『豆腐百珍』の巻頭を飾る尋常品は「木の芽田楽」である。ちなみに尋常品の2品目は「雉子焼田楽」。田楽は豆腐料理の中で最も古い一品であり、意外と難しい料理なのか、「木の芽田楽」はまず豆腐の扱い方から書き出されている。

湯を大盤(おおはんぎり)に一杯に張り、豆腐を切るのも串に刺すのも、その湯の中ですれば、やわらかな豆腐でもうっかり落としたりする心配がない」。田楽用の炉の新製品がイラスト入りで紹介されていることなどからも、当時の田楽の人気がうかがい知れる。

大正年間になっても田楽の人気は衰えなかったようだ。「大豆100粒運動」の提唱者である辰巳芳子氏の母堂、辰巳浜子さん(1904〜1977年)によると、

神田に生れて神田に育った私は、大正初年頃の神田橋、須田町から九段あたりの想い出は尽きません。木の芽時は、豆腐屋が焼きたての、ほかほかの木の芽田楽を配達したものです。塗り箱で、竹串に刺されて、甘い練り味噌がぼってりと、とき辛子がツゥンと鼻に抜けるのがこのうえなく小気味よくて好きでした。ふんわりと焼き上った豆腐と木の芽味噌の出会い、この季節がくるとどうしても食べずにおられぬものの一つです。


木の芽の出る春になると、焼きたて田楽の移動販売が行われていたのである。

さて、木の芽田楽のレシピだが、辰巳浜子さんの場合、

木の芽味噌は、西京味噌に水と味醂を加えて練りあげ、湯引いた木の芽を摺って混ぜ合せます。信州、仙台味噌は砂糖も加えます。私は、酒、味醂、砂糖、水を調合して弱火で練りあげ、練り味噌を常時作っておき、木の芽、辛子、胡麻など用途に応じて混ぜることにしています。


また、料理屋風の“木の芽色”に仕上げるならば、みそに「青寄せ」を加えればよい。「青寄せ」とは、ホウレンソウまたはコマツナを細かく刻んですり鉢ですり、水をたっぷりと加えてこし、色水を取る。この色水を鍋で静かに煮立てて、葉緑素を寄せたものをいう。

参考文献:辰巳浜子『料理歳時記』(中公文庫)
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