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油揚げの正体

幕末の風俗を記した『守貞漫稿』に「いなり鮨」の説明がある。

天保(1830〜1843)末年に、江戸で油揚げ豆腐の一方を裂いて、袋形にし、木耳(きくらげ)、かんぴょうなどを混ぜた飯を入れて、鮨として売り歩く。日夜共に、これを売るが、夜をもっぱらとして、行燈に鳥居を描き、名づけて、稲荷鮨、あるいは篠田鮨ともいう。ともに、狐に因縁のある名前であり、野狐は、油揚げを好むものであるから、この名前とした

稲荷」も「篠田(信太)」もキツネに縁があるというのは、稲荷信仰においてキツネが神の使いであるとの俗信があったためであり、また、大阪府和泉市の信太山にかこつけたためである。

信太山は時雨や紅葉の名所だが、その森に植わった楠の大樹の下に白狐が生息していたという洞窟がある。人形浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑』の題材ともなった「葛の葉」伝説の舞台で、女人に化けた白狐が安倍保名と暮らし、1子(陰陽師として知られる後の安倍晴明)をもうけたが、正体を知られたために森に帰ったという。白狐の人としての名前が「葛の葉」だった。油揚げ…キツネ…葛の葉…信太(篠田)という連想を働かせたのである。

さて、元禄時代(1688〜1703)の江戸の町では、油揚げがおかずとして人気があったことが『本朝食鑑』の記述からうかがい知れる。豆腐を薄く切って油で揚げた「油揚げ」は、脂質だけでなく、もともとの豆腐にたっぷり含まれるたんぱく質やカルシウム、鉄、ビタミンEなどの成分が、油で揚げられたことで増加している。

木綿豆腐と比較すると、血管を丈夫にして、脳卒中や動脈硬化などの予防効果で注目されているたんぱく質が約3倍(可食部100グラム当たりで豆腐6.6グラム、油揚げ18.6グラム)、骨を丈夫にするカルシウムが2倍以上(豆腐120ミリグラム、油揚げ300ミリグラム)、貧血を防ぐ鉄が4倍以上(豆腐0.9ミリグラム、油揚げ4.2ミリグラム)、そして体細胞の酸化を防ぐビタミンEも4倍以上(ビタミンEのうち、α—トコフェロールが豆腐0.2ミリグラム、油揚げが1.5ミリグラム)になる。

参考文献:永山久夫『永山豆腐店 豆腐をどーぞ』(一二三書房)
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